痛みのメカニズム解明の北大教授 精神的痛みを克服する術を指南

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痛い思いをするのはどんな人でも苦手なものだが、「なぜ人は痛い思いをするのが嫌なのか」を考えてみたことはあるだろうか? 誰しもが「自明の理」と思っていたこの現象のメカニズムについて、世界で初めて検証したのが北海道大学の南雅文教授だ。南教授は「不快な経験をした場所には近づかなくなる」という動物の習性を利用し、ラットを使って実験を開始。結果、痛みを感じたときに反応する脳神経の部位を特定することに成功した。

「ちょっと専門的な話になりますが、痛みを感じると、脳の分界条床核という場所において、不快神経の活動が亢進します。そうすると、脳に幸福な状態をもたらす神経であるドパミン神経(快神経)の働きを抑制してしまうんです」(南教授。以下同)

この結果、痛みを感じると不快感を抱いたり、楽しいことが楽しく感じられなくなってしまったり、やる気を失うなどの現象が起こるとか。

「物理的な痛みと精神的な痛みを感じる部分は一緒なんです。この神経は痛みだけでなく、苦みや酸味、悪臭、暑さや寒さなどのストレスはもちろん、精神的ストレスにも反応すると考えられます。それゆえ、慢性痛のように、警告信号の役割を果たした後でも痛みが続くケースでは、患者の精神状態を圧迫してうつ病など精神疾患を併発することもあるんです」

深刻な場合だと、腰痛の人に重いものを持つ映像を見せただけで痛みが生じることも。

「しかし、不思議なことに物理的な痛みはともかく、精神的な痛みは人によって感じ方がものすごく違います。たとえば、同じ言葉を投げかけられても気にしない人もいれば、反対にものすごく気にしてしまう人もいる。後者は普通の人よりも感受性が高いので、ちょっとしたことでも精神的ストレスを感じやすく、不安になってしまうんです」

精神的な痛みが昂じると、極度の不安症になってしまい、引きこもり、さらにはうつ病にまで発展する事例も。では、これらの精神的痛みを克服する方法はあるのだろうか?

「納豆やチーズなどの臭いものでも、経験して『これは大丈夫だ』と学習していけば食べられるようになる。要は経験と学習が大事なんです」

ただ、経験と学習で精神的痛みや不安・うつを取り除いていくには時間がかかる上に個人差もあるため、こうした不安・うつを抑える薬を研究している南教授。とはいうものの、人間から不安や痛みを取り除くのは、それはそれで問題で、痛みは、動物が危険を回避したり、自分の身体の不具合を知るための重要な警告信号の役割を果たしているのだとか。一概に痛みや不安を“悪者”とは言えないそうだ。

◆ケトル VOL.13(2013年6月15日発売)

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※この記事は、「太田出版ケトルニュース」に当時掲載した内容を当サイトに移設したものです。