日頃何気なく目にしている「クモの糸」が、実は鋼鉄のワイヤーよりも強くて丈夫だということをご存知だっただろうか? その丈夫さはハンパではなく、たとえばジョロウグモの糸は鋼鉄の20倍の強靭さ(強さと柔軟さ)を持っているという。
この丈夫さをなにかに活かせないか? そこでクモの遺伝子を組み入れたカイコから、通常の約1.5倍も切れにくく、鋼鉄よりも高い強靭性を持つ天然シルク「クモ糸シルク」を作ることに成功したのが、農業生物資源研究所の桑名芳彦主任研究員の研究グループだ。「もともとはシルクのタンパク質について研究していた」と語る桑名さんだが、クモ糸に目をつけた理由はなんだったのか。
「クモの糸は縦糸と横糸があって、横糸は獲物を絡めとるためネバネバと粘着性が強い糸ですが、縦糸はベタつきがなく、伸縮性に富んでいて非常に切れにくいんです。単に“強度”を求めるなら、炭素繊維などクモの糸以外にも強い素材はありますが、クモの縦糸のように強さもあるのに、伸縮性にも富んでいるような強靱性の高い素材はちょっと見当たらないんです」
さまざまな実験の結果、多数のクモのなかでも、オニグモの遺伝子を通常の養蚕農家が使用するのと同じ品種のカイコに組み入れたところ、見事に切れにくく強靭な糸を紡ぐことが可能になったとか。完成したシルク糸には、オニグモの縦糸のタンパク質が1%弱含まれているとのことだが、通常のシルクとはいったいなにが違うのだろうか。
「まず、クモ糸の『強くて切れにくい』という特性から、耐久性が普通のシルクの1.5倍強いです。その一方で、カイコの持つ光沢や柔らかさを併せ持っているため、肌触りや弾力も十分です」
今後はさらに強度や機能性を高めたクモ糸シルクの開発を予定しているという桑名さん。
「もともとシルク自体が『熱に強い』と言う特性があるので、防護服や防災ロープなどの特殊素材や、手術用の縫合糸など医療現場への応用を考えています。生産コストもほぼ普通のカイコと変わらないので、受け入れてくれる農家さんさえあれば、普通のシルクと同じぐらいの価格で提供できると思います」
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