昭和から平成にかけてヒット作を連発した伊丹十三監督は、俳優、デザイナー、テレビやCMの制作者、エッセイストとしても超一流の才能を発揮した天才肌の人物でしたが、料理についても“超”が付くこだわりの人でした。そんな伊丹さんが1960年代に発表したエッセイで日本に紹介したのが「スパゲッティ」でした。
伊丹さんが提案するスパゲッティのレシピは、バターとチーズだけのシンプルな「スパゲッティ・アル・ブーロ」。作り方は以下の通りです。
【スパゲッティ・アル・ブーロの作り方】
(用意するもの)2人分あたり:水(たっぷり)、塩(ひとつかみ:20g)、バター(60g)、スパゲッティ(イタリー製)200g、パルミジャーノチーズ(適量)、手持ちの中から最大の鍋
(1)なるべく大量の水を火にかけ、塩を入れる。
(2)煮えたぎっているお湯の中へスパゲッティを長いまま入れる。噛み切るときにスコッとかすかな抵抗が感じられたら、アル・デンテの状態。このとき、あらかじめお皿は熱しておく。
(3)茹で上がったら手早くお湯を切る。このとき鍋のお湯もすべて捨てる。
(4)鍋にスパゲッティを戻す。バターを湯気の立っているスパゲッティとともに、まだ熱い鍋に放り込み、手早くかき回す。
(5)温めたお皿に手早く盛り付け、まだ湯気が出ているうちにすぐ食べる。この時パルミジャーノチーズを自分でおろし、食べるのが好ましい。
このスパゲッティ・アル・ブーロにオリーブオイルとバター半々、大蒜(ニンニク)やパセリに潰したトマト、月桂樹の葉、塩コショウ、タバスコを煮詰めたトマトソースをかけると「スパゲッティ・ポモドーロ」、トマトソースにアサリのむき身を入れれば「スパゲッティ・アレ・ヴォンゴリ」の完成です。ウインナーやピーマンが入ったナポリタンに慣れ親しんでいた人びとにとって、これらは衝撃のレシピでした。それにしてもアレンジまで教えてくれる伊丹先生、ぬかりがありません。
エッセイ集『女たちよ!』や『ヨーロッパ退屈日記』では、ナポリタンをズルズルすすって満足する日本人の目を覚ますべく、本場・イタリアで得たスパゲッティの作り方が紹介されます。記されているのはベストな茹で具合「アル・デンテ」から、茹でる際の塩の目安量、正しい食べ方、などなど。フォークに絡ませるパスタは7~8本、イタリアの長いパスタは2~3本が目安、なんて細かなコツまで書いてあります。発表された当時は“洋食”の前提が覆る「目からウロコ」のネタばかりでした。
◆ケトルVOL.47(2019年2月15日発売)
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