映画監督のほか、エッセイスト、TV制作者、CM制作者、デザイナーなど、数多くの顔を持った伊丹十三さんは稀代のグルメとしても知られ、食べ物に関する名エッセイをいくつも残しています。そんな伊丹さんがこだわったメニューの1つがサラダです。
伊丹流・サラダを作るうえでの禁忌は主に2つ。1つは既成品のドレッシングやマヨネーズを使うことです。ドレッシングは伊丹さん曰く「料理人の個性そのもの」。「既製品のドレッシングを使う人は、人間も既製品ということだ」とまで怒られてしまいます。
もう1つの禁忌は、素材を軽視すること。伊丹さんはレストランでサラダを頼んだ時、白っぽくて人工的な「レタスの皮を引っぱがしたやつ」が出てきて激怒したとのこと。野菜が本来のあるべき姿で生き生きしていないと、サラダも「生き生きとした食べ物」にはなりません。
伊丹さんは『女たちよ!』の中でサラダの作り方に非常に細かな指示を出しています。「黒胡椒はその場でがりがり挽いて入れよう」とか「普通は酢を使うけどレモンをメインで使って酢をちょっぴり、のほうがいい」とか。クレソンなど辛みがある野菜には、砂糖を少しだけ入れることもこだわり。
でも何より意外なひと手間は「盛り付け方」の掟です。サラド・ニソワーズは、決して綺麗に盛り付けてはなりません。「お上品に盛るなんぞは烏滸(おこ)の沙汰」とまで書かれているのでガガッとかき混ぜ、木鉢のまま食卓の中央にドンと据えましょう。さらにその掟は、料理が食卓に並ぶまで続きます。温かい料理はお皿も温めて出すこと。飲み物に合わせグラスの厚みは変えること。エッセイには他にも食にまつわる話が登場しますが、料理を楽しむ時の盛り付けの重要さが分かります。
最後に「サラド・ニソワーズ」(ニース風サラダ)の作り方を紹介しましょう。
【材料】
2人分:オリーブ油(大さじ2)/レモン(2分の1個)/酢(少々)/大蒜(1片)/塩胡椒・マスタードの粉/好きな野菜/オリーブ/ツナ缶/アンチョビイ/ゆで卵/サラダ・ボウル
(1)先に、サラダ菜や野菜を食べやすい大きさに千切っておく。水はよく切っておくこと。
(2)ドレッシングを大きなサラダ・ボウル(木の鉢が好ましい)の中で先に作る。オリーブ油にレ
モン、これに酢をちょっときかせる(伊丹さんは酢よりもレモンを使うことを好む)。
(3)作る過程で大蒜、塩・胡椒、マスタードの粉を少しずつ入れる。大蒜はボウルの中でスプーンを使って潰すのがポイント。胡椒はその場でがりがりと挽くこと。
(4)ドレッシングを作ったボウルへ、サラダ菜やキュウリ、トマト、セロリ、玉ねぎ、赤カブなどの好きな野菜に、ツナ缶、アンチョビイ少々、ゆで卵を輪切りにしたものをどっさり入れる。
(5)材料をかき回す。田舎の大ご馳走だから、くれぐれも綺麗に盛りつけようと思わないこと。それから、出来上がったサラダを冷蔵庫にしまっておかないこと。
◆ケトルVOL.47(2019年2月15日発売)
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