GEZANの自主レーベル「十三月」が主催する音楽フェス『全感覚祭』が、今秋の開催で6回目を迎える。アーティストは自らの才能を披露し、それに感動した観客から対価(=お金)をもらうことで初めて成立する仕事だが、なぜ『全感覚祭』は「入場無料・投げ銭制」なのか? 2019年6月26日発売の『クイック・ジャパン』vol.144で、主宰者のマヒトゥ・ザ・ピーポーはこのように語っている。
「バンドだってもちろんタダじゃないし、いろんな経費とかが付随してくるのはわかってるんです。この前、ある人から『今後もイベントを続けていくなら、“経済”と手を組まないと』っていう話をされて。でも俺、本当に今年のことしか考えてないんですよ。もしダメになったらそれが時代のジャッジだと思ってて。投げ銭っていうキレイな概念が成立するのかしないのかっていうのを試してるところがあるから。だからイベントに来てる人たち一人ひとりに、一旦足を止めて考えてほしいんですよね。この場所が、この空気が、どんなところから生まれてるのかっていうのを」
損得の計算が得意な人間が幅を利かすなか、「文化祭とか体育祭って、別にお金が発生してたわけじゃないじゃないですか。でも、『頑張ったのになにも返ってきてない』なんて思わなかった」と説くマヒト。昨年の『全感覚祭』では、とても美しい光景を目にしたそうだ。
「小さい女の子が、一緒に来てたお父さんに『自分がいいと思ったら、それを気持ちとして箱に入れるんだよ』って、投げ銭の仕組みを教わってたんです。そしたら15分後くらいに赤い花を摘んできて、投げ銭ボックスに入れたんですよ。赤い花もらったってなんの経済的価値もないけど、やっぱりうれしかった。ほんとは経済とか政治って、そういうところからはじまってるはずなんですよ」
そんな彼が信じているのは、フェスを訪れたひとりひとりの意思と想像力だ。
「お金で感謝とか感動を表すこともほとんどないし。ライブハウスで払う2500円だって、別にバンドに感謝して払うわけじゃなくて、ただ値段が決まってるから、もう無の感情で払ってますよね。全感覚祭はいくらでもズルできるけど、そういう中で払う2500円って、自分の意思が入ってるじゃないですか。俺はやっぱりそのお金が同じ価値だとは思えなくて。同じ数字でも、そこに絡みついたエネルギーの総量が違う気がしてて。こんなの経済の話じゃないですよね、まったく」
確かに経済のルールに則ってはいないが、『全感覚祭』が第6回目を迎えられたということは、彼の考えが確実に支持されているということ。マヒトは、「3年後ぐらいにはもうほんとに『間違えた……真っ赤っかや』みたいな(笑)」とおどけているが、信念を貫く姿勢への共感の輪は益々広がりそうだ。
◆『クイック・ジャパン』vol.144(2019年6月26日発売/太田出版)
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・クイック・ジャパンvol.144
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