突然変異、多国籍化、衝撃展開… 『X-MEN』を長続きさせたアイデアの数々

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今年6月、『X-MEN』シリーズの最新作『X-MEN:ダーク・フェニックス』が公開され、マーベル・コミックス史上最長の映画シリーズがついに終焉を迎えました。同作の原作者は、“マーベルコミックの神様”とも称されるスタン・リーですが、『X-MEN』が“ネタ切れ”しなかったのは、あるひらめきによるものでした。

当時、すでに自分なりの“ヒットの法則”を掴んでいたスタン・リーは、『スパイダーマン』『ハルク』『ソー』『アイアンマン』など、わずか1~2年の間に次々と人気キャラクターを量産。これらのヒーローが揃い、ついにマーベル・コミックス版の『ジャスティスリーグ・オブ・アメリカ』といえる『アベンジャーズ』も創刊されました。そして、この『アベンジャーズ』が創刊された1963年9月には、もうひとつ画期的なコミックスが発表されています。それが『X-MEN』です。

「ただ力が強いだけのヒーローはもう使えない。ヒーローのパワーに新しい理由が必要だ」──スタン・リーは多くのヒット作を生み出す一方、スーパーパワーの由来を毎回イチから考える作業に限界を感じるようにもなっていました。

放射線を浴びたクモに噛まれたり、ガンマ線の爆発に巻き込まれたりする以外に何かいい方法はないか。スタンがたどり着いたのは、生まれながらに「X-遺伝子」によって超人的能力を持つ「ミュータント」というアイデア。突然変異ということにすれば、能力の由来を考えずに新しいキャラクターを次々と生み出すことができるからです。この当時としては斬新な設定が、『X-MEN』を何十年も続くシリーズにすることを可能にしたのでした。

◆実は連載開始後はなかなか人気が出なかった

互いにマイノリティでありながら、プロフェッサーXが率いる「X-MEN」とマグニートーの率いる「ブラザーフッド・オブ・イービル・ミュータンツ」というミュータントのチーム同士が思想の違いから対立するという物語は、それまでのコミックスとは違った魅力を提示していました。善と悪の対決という定番の構図も大きく変更され、善いミュータントと悪いミュータントがいるわけではなく、本当の悪は人の偏見そのものに起因しているというメッセージを打ち出していきます。

しかし、そのコンセプトが新しすぎたのか、『X-MEN』は一部のマニアから作品性を高く評価されたものの、他のタイトルと比較すると、なかなかヒットを飛ばすことができず、苦戦を強いられることになります。

◆多様な人種の加入で作品世界を刷新

人気低迷もあり、スタン・リーが『X-MEN』に関わっていたのは1963年から1966年と短い期間でした。そのため、後に担当する作家とアーティストの手でいくつかのマイナーチェンジが行われることに。その中でも1975年に参加した人物が、『X-MEN』を大きく変貌させます。それは作家のクリス・クレアモント。この年に刊行された『ジャイアント・サイズX-MEN』を機に彼のアイデアでまったく新しいX-MENが結成され、世界的なヒット作へと生まれ変わります。

そのアイデアとは、それまでの戦いで壊滅状態に陥っていたX-MENを助け出す新しいメンバーを、プロフェッサーX が世界中からリクルーティングするというもの。この大変革により、アメリカ出身メンバーばかりだった『X-MEN』は、それぞれの国や個による考えの違い、能力の違い、経歴などが複雑に絡み合う物語となり、群集劇としても魅力的なストーリーを描くことに成功していきます。特に1974年に初登場し、ハルクと戦ったウルヴァリンには爆発的な人気が集中。ウルヴァリンはスパイダーマンと並ぶマーベルの看板キャラクターに登り詰めます。

◆90年代にはギネスの世界記録まで達成

さらに80年代にクレアモントは『ダーク・フェニックス・サーガ』というジーン・グレイの破滅の物語を描きます。今も名作と語り継がれ、映画の最新作『X -MEN:ダーク・フェニックス』の原作でもあります。

1991年にはクレアモントとアーティストのジム・リーが手がけた『X-MEN# 1』が、なんと818万部を達成。販売数のギネス世界記録まで打ち立てました。以降、マーベル・コミックスではX-MENを中心にしたクロスオーバーが多く展開され、1995年の『エイジ・オブ・アポカリプス』という作品では、過去の世界でプロフェッサーXが死に、X-MENが誕生しない「if」の物語が描かれます。

ミュータントの始祖アポカリプスが復活したことによりディストピアと化した世界が舞台で、本来誕生するはずだったファンタスティック・フォーやスパイダーマンなどのヒーローたちが存在せず、当時いくつも刊行されていたX -MEN系コミックスの連載が、すべて同時期に終了してアポカリプスの世界に合流するという衝撃の展開で好評を博しました。

2012年には『アベンジャーズvs.X-MEN』という、共に1963 年に生まれた2大タイトルを冠したクロスオーバーも実現。ミュータントの視点によって世界を政治的、風刺的に見ることのできる『X -MEN』は、マーベル・コミックスがスーパーヒーローを描くうえで今や外すことのできない作品に成長を遂げたのです。

◆ケトルVOL.49(2019年6月15日発売)

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※この記事は、「太田出版ケトルニュース」に当時掲載した内容を当サイトに移設したものです。

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