安彦良和 代表作『王道の狗』に込められた「自分は日陰者だという思い」

カルチャー
スポンサーリンク

『機動戦士ガンダム』を手掛けた安彦良和が、自らの作品や制作秘話を語る雑誌『CONTINUE』のインタビュー連載「マイ・バック・ページズ」。2019年7月25日に発売された『CONTINUE Vol.60』では、安彦が『王道の狗』について語っている。同作は、『ミスターマガジン』(講談社)で連載された作品だが、どのような経緯で生まれたのか? 安彦はこう語っている。

「これは、『ジャンヌ』や『イエス』といった西洋史ものの路線から、『虹色のトロツキー』で描いていた近代史ものに戻ってきたという感じなんだけどね。やっぱり自分にとっての王道というか、興味の対象の本筋はここだという思いがあったから。編集部の方に『こんな作品を描いてもいいですか?』と言って描かせてもらった作品。

印象として一番強く残っているのは、『講談社から仕事が来た!』ってこと。惨めな話だけど、これが初めての大手出版社からのメジャーな仕事だったというね(笑)。それまで完全に開き直って『俺は音羽も一ツ橋も知らないで生きているんだ。こんな奴は業界にいないよ』って言っていたんだけど、そうしたら仕事が来た。それはもう『ついにキターーー!』って感じで。意気がってたけど、やっぱり嬉しかったですよ」

編集の人間から電話があった後、コンビニに『ミスターマガジン』を買いに行き、「50歳でメジャーデビューだ」と、周囲に言いふらしたという安彦。大手出版社との付き合いは、学ぶことが多かったようだ。

「メジャーな編集と付き合うんだから、ある程度は言い分を聞いてやっていこうと思ったんだよね。そこで、とにかく『こういうものを描きたい』というのを言って、それに対して相手も副編集長らしく『作品はどうあるべきか』というようなことを言うんだよね。こっちも聞く耳を持たないといけないと思ったので、『なるほど、それはごもっとも』と最初は素直に取り入れていった感じで」

編集の「わかりやすくしなくてはならない」というオーダーを素直に聞き、最終的には、「自分でもすごく気に入っていて、『代表作は何ですか?』と聞かれれば、必ず入れる」という作品になった『王道の狗』。作品には多くの“日陰者”が出てくるが、これには安彦なりの思いが込められているようだ。

「こういうことを言うと同業者に叱られるかもしれないけど、やっぱりアニメを仕事にしてきた自分は日陰者だという思いがあるんだよね。『ガンダム』がヒットしたといって、一時期はチヤホヤされたけど、基本的には裏道人生もいいところだよっていう思いはどこかあって、そういうところでちょっと意気がってみたい、自己肯定してみたいという。『裏道で悪いか、俺はちゃんと生きているよ』ってことも示したかった」

残念ながら『王道の狗』は、連載が終わると同時に掲載誌が休刊になってしまったが、安彦によれば、「雑誌の終わりが連載の終わりだった」のだとか。結果として傑作が生まれたが、安彦は、

「メジャーデビューなんて思ったけど、講談社ではやっぱりマイナーなところだったんだなあ、と。まあ、お役に立ってメジャー誌にできれば良かったんだろうけど」

と、振り返っており、満足の中にも悔しさが滲む作品でもあったようだ。

◆CONTINUE Vol.60(2019年7月25日発売)

【関連リンク】
CONTINUE Vol.60

【関連記事】
安彦良和 『ヴイナス戦記』が長年封印作となっていた理由
「ガンダム」は6畳のアパートから生まれた 誕生を担った真夏の企画会議
田代まさしが語る「ダルクとの出会い」「薬物をやめるには」 吉田豪が迫る
『ファミコンロッキー』作者 「一番反響があったウソ技はバンゲリングベイ」

※この記事は、「太田出版ケトルニュース」に当時掲載した内容を当サイトに移設したものです。

関連商品
CONTINUE Vol.60
太田出版