リメイクされた『ペット・セメタリー』 恐怖の源はS・キング自身の実体験

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映画界では現在、スティーヴン・キング原作の作品が大ブーム。昨年秋に映画『IT』のチャプター2が大ヒットすると、冬には『ドクター・スリープ』が話題になり、現在は『ペット・セメタリー』が上映中です。『IT』に引き続きリメイクされたキングの人気小説『ペット・セメタリー』は、カルト的人気を誇るオリジナルが存在しますが、どのようなアプローチで作られたのでしょうか。

2009年に『Absence』で長編デビューを果たす前から、コンビで映画製作を行ってきたケヴィン・コルシュ監督とデニス・ウィドマイヤー監督は、『ケトルVOL.52』でこう語っています。

ウィドマイヤー 「登場人物を中心として、彼らの持つ恐怖に焦点を当てたホラー作品は良いですよね。ホラー要素を取り除いたとしてもドラマとして成り立つような作品が僕は好きです」

コルシュ「愛する者を亡くす、死に対する恐怖は人間にとって普遍的なもので、誰もが共感できるテーマだと思います。デニス(・ウィドマイヤー)も私も、キャラクターやテーマを基盤に、登場人物が体験する恐怖を題材にしたホラー映画が大好きですから」

『ペット・セメタリー』はホラーに内包された人間の悲しい業や家族愛が描かれている作品。特別奇怪な風貌をした化物が登場するでもないのに、キング自身も恐ろしすぎて筆が止まったという同作ですが、理由は「たとえ屍のままでも、愛する者を取り戻せるなら?」という問いが人間の禁忌に触れるからに他なりません。

ウィドマイヤー 「そう。これは誰もが胸の内の潜めている恐怖であって、決して外部から何かが襲ってくるという怖さではない。今回は原作に立ち返ったうえで、全く新しい解釈で恐怖を表現したんです」

◆キング自身の恐怖体験が物語の中核を担っている

時は1979年、メイン大学での講義を依頼されたキングは一家でオリントンという街に引っ越します。新居は大型トラックが頻繁に往来する道に面し、裏手には小さなペットの墓という、どこかで読んだことのあるシチュエーション……。

住み始めてからしばらくしたある日、娘のナオミが溺愛していた猫が家の前でトラックに轢かれるという事件が発生しました。キングは娘に猫の死を伝えるか、家出したことにするか悩んだそうで、この葛藤が、そのまま本作の主人公ルイスにも投影されています。また物語の最大の出来事であるあの交通事故も、実体験に基づいています。

コルシュ「ある日、走り回る息子が道路に飛び出して車に轢かれる寸前に、スティーヴンが捕まえて引き戻したという出来事がありました。息子は危機一髪で救えたけど、もし一瞬でも遅れていたらどうなっていたかを想像した彼が、その時の恐怖に基づいて執筆した。だからこそ、本作はキング自身が怖がっている物語ですし、より誰もが身近に感じられる恐怖が描かれているのだと思います」

“なるべく原作に忠実に作ろうとした”という同作ですが、89年版ではほぼ語られることのなかった、ミックマック・インディアンの埋葬地に取り憑く邪悪な存在ウェンディゴについて触れられており、これについてウィドマイヤーは、

「神話的要素が溢れている点も原作の素晴らしさの一つです。キングはこういった迷信や神話を描くのが凄く上手いですよね。それらを使ってこの墓地にまつわる歴史や伝承を明らかにし、設定に深みを加えている。ケヴィンも私もそうですが、多くの人はこういった要素が映画に描かれているのが好きなんだと思いますよ」

と解説。89年版では触れられなかった邪悪なものにフィーチャーし、命を落とす人物も89年版と変わったことで、“原作に忠実でありながらも原作とはまったく違う作品”ができあがりました。

◆ケトルVOL.52(2020年2月15日発売)

【関連リンク】
ケトル VOL.52-太田出版

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※この記事は、「太田出版ケトルニュース」に当時掲載した内容を当サイトに移設したものです。

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