仕事や恋愛、二次元の推しに対する強すぎる想いなど、現代を生きる人々のお悩みはさまざまです。『カレー沢薫のワクワク人生相談』では、漫画家でコラムニストのカレー沢薫が皆様のお悩みに低めの視点からアドバイス。ここでは、本書で人気だったQ&Aを一部ご紹介します。「できればムカつかずに生きたい!」アナタへ贈る、カレー沢薫流令和の歩き方講座。
無職ハラスメントにどう対応していますか?
Q. 当方無職女です。病気が理由の無職です。体調のいい日は元気なので、「無職ですが?」と胸を張ってiTunesカードを買い、推しに課金したいのです。カレー沢さんは「お仕事は?」と聞かれたら何と答えますか?
A. 私も無職です。
会社を退職するにあたり、「これからは主婦ですか」と聞かれた際も「いいえ無職です」と訂正を入れるほどの無職です。
執筆業があるのだから無職は違うだろうと思われるかもしれませんが、会社を辞めた時点で社会保険は全て失いましたし、今ある連載だって出版社などに「今回で終わり」と言われたら諾々と従うしかなく、訴え出るところすらありません。
さらに他のフリーランスの方と違い、資格や技術があるというわけでもなく、圧倒的不安定です。つまり明日正真正銘の無職になっても不思議ではないので職を尋ねられたら「無職」と答えるのが「一番誤解を生まない」と思って言っています。
しかし、私ほどの無職になると、会社を辞める3か月前から「無職沢薫先生」「カレー沢無職先生」と呼ばれる堂に入った無職ぶりであり、もはや無職になるために生まれてきたとしか思えません。まさしく「天職」です。
よって、私は他人から無職と言われても全然嫌な気はしないのですが、それは「そう呼ばれることがネタ的におもしろいから」と思っているわけではありません。別に無職は恥ずかしいことでもダメなことでもないと思っているからです。
確かに、働ける身体があるのに面倒だから働かないという、ちょっとは照れた方が良いタイプの無職の方もいらっしゃいますが、無職である理由はそれこそ千差万別であり、それを見ずに「無職=恥ずべきこと」としてしまうのは、無職に対する職業差別です。
「アイドルマスター SideM」という男性アイドルソシャゲがありますが、そのゲームのキャッチフレーズは「理由(ワケ)あってアイドル」であり、キャラクターごとに本当にいろんな経緯があってアイドルになっています。同じ理由は一人とていません。
それと同じように我々も「理由(ワケ)あって無職」なのです。
そして、その理由(ワケ)の中には本人のやる気とか人間性とかと全く関係ない「どうしようもないこと」も多分に含まれています。
つまり、誰しも「運悪く無職」「宿命的無職」「大無職不可避wwww」のような状況になることがあるということです。
病気など、その筆頭であり、どんなに気を付けていようがなる時はなります。「病気なんて心が弱くて、自己管理が出来てない奴がなるもの」と言っている奴だって120年後ぐらいには何かの病気になって死ぬと思います。
つまり、生きていれば誰しもなり得るものになったからといって、いちいち自分を責めたり恥じたりしていても仕方がありません。
もちろん具体的に迷惑をかけたり、世話をかけてくれたりしている人に感謝するのは大切ですが、少なくとも「世間様」的なものに申し訳なく思う必要はありません。
また、質問者さんの御病気がどのようなものかはわかりませんが「調子がいい日は胸を張って推しに課金したい」というのは、療養中にすることとしては「ベストアンサー」に近いです。
なぜなら「休養」には「楽しいことをする」も含まれているからです。特に推しほど健康に良いものはありません。
確かに、推しが尊すぎて体調を崩したり、気づいたらあばらが粉々になったりしている我々ですが、精神的には推しほどの良薬はないです。
むしろあなたに「推しに課金してえ」という気持ちがあることこそ、「吉兆」「回復の兆し」なのです。楽しいものを楽しいと感じられる心こそが「健康」です。
しかし、世の中には、休んでいる人が楽しそうにしているのを許せない人もいます。
病気で休んでいるなら、24時間カーテンを閉め切ったBGM森田童子の部屋で、この世の不幸を全て背負った顔で横になっていなければいけない、と思っている人です。
これはいわゆる「自粛厨の発想」であり「今世の中には大変な人がいるんだから、お前も神妙なツラをしろ」と言うわけです。
それと同じように、世の中には一生懸命働いている人がいるんだから働いていないお前は病人らしい振る舞いをするか申し訳なさそうな顔をしていろ、と言うのです。
そういう人は、休んでいる人が遊んでいるところを見るとすぐ「元気なら働け」と極論を持ち出しますが、好きなことをするのと会社へ行くのと、必要な元気量が同じなわけがないでしょう。
特に、月曜の朝会社へ行くのには、悟空が地球を救った時の元気玉と同じ規模の元気がいります。
むしろそういう膨大な元気を貯めるために、好きなことをする必要があるのです。
そういうことを言う人に会ったら「優しくない人に会っちまった」と、ドラクエで嫌な敵にエンカウントしてしまったようなものと思って諦めるしかないですが、真面目な人ほど自分に自粛を課してしまうものです。しかしそれで回復が遅れては本末転倒です。
よって、逆に「真面目に治す気があるから、推しに課金する」「課金という治療をしている」ぐらい堂々と課金、好きなことをしましょう。
ただし、それがガチャだと「推しが出なかった」場合さらに心身の健康を損ねるので、「推しへの課金は確実に手に入るグッズなど」をお勧めします。
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本書では「セクハラと思っていないセクハラ発言へのベストアンサーを教えてください!」「四十代からの終活について教えてください。」「「公式と解釈違い」のモヤモヤをどう解消すればいいでしょうか?」などなど、全37個のお悩みにカレー沢薫先生がビシバシお応えしています。気になるお悩みがある方は、現在発売中の『カレー沢薫のワクワク人生相談』をチェック!
筆者について
かれーざわ・かおる 1982年生まれ。漫画家、コラムニスト。2009年に『クレムリン』(講談社)でデビュー。自身2作目となる『アンモラル・カスタマイズZ』は第17回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品になぜか選出され、担当編集ならびに読者が騒然となった。主な漫画作品に『猫工船』(小学館)、『ひとりでしにたい 1』(講談社)、『きみにかわれるまえに』(日本文芸社)、エッセイ作品に『ブスの本懐』『ブスのたしなみ』(ともに小社)、『負ける技術』『もっと負ける技術』『非リア王』(ともに講談社文庫)、『クズより怖いものはない』(大和書房)、『ひきこもりグルメ紀行』(ちくま文庫)などがある。