対戦格闘ゲームの代名詞『鉄拳』 Pが語る「忘れられない大失敗」

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プレイステーション(PS)を代表する人気ゲームといえば『鉄拳シリーズ』。PSだけでも数多くのタイトルが発売され、今や対戦格闘ゲームの代名詞ですが、評価を確立するまでには人知れぬ苦労があったそうです。鉄拳シリーズに四半世紀にわたって携わってきたプロデューサーの原田勝弘さん(バンダイナムコエンターテインメント)は、『ケトルVOL.51』でこのように語っています。

「後にいろんな市場調査をしたことでわかったのですが、ユーザーが『鉄拳』を買ったきっかけとして多かった回答は、“映像がすごい”“本格的なゲームに見えた”といった技術面でのインパクト。会社としては“面白いゲームを作ったから売れた”と言いたいところですが、シリーズ初期の実態はそうじゃなかった。当時は“2Dで対戦するなら『ストリートファイターII』。3Dなら『バーチャファイター』”との評価が一般的で、『鉄拳』は映像や技術の目新しさで支持されていた面が大きかった」

『鉄拳』はPSが発売された1994年に登場し、PSのタイトルになったのは1995年のこと。制作側の想像とは違う形で動き出したことで、多くの学びがあったようです。

「そもそもナムコ(現・バンダイナムコエンターテインメント)は当時めっぽう技術に強い会社で、他社に先んじてポリゴンの技術やノウハウを多く持っていました。そんな中でPSが出て、ゲームは一気にポリゴン全盛の時代となった。そこで『鉄拳』はPSという最新のプラットフォームの実力をわかりやすく提示したベンチマークとして見られていました。

この事実は我々に大事なことを教えてくれました。つまり、ゲームは遊んでからわかる面白さだけで売れる時代ではなくなったこと。娯楽の選択肢が増えたことで、遊ぶ前からゲームの優れたところをアピールしないと手に取ってもらえなくなった。『鉄拳』は技術面での新しさがあったから、格闘ゲームのファン以外にも届いたんです」

◆今も忘れられないユーザー調査の罠

そして1998年に発売された『鉄拳3』は累計で850万本以上が売れる大ヒットとなりましたが、原田さんが「良くも悪くももっとも印象に残っている」と語るのは『鉄拳4』。徹底したユーザー調査が裏目に出てしまいました。

「“ゲームとしての面白さ”によりフォーカスしようと、ユーザー調査で『鉄拳の嫌なところ』に関する意見を徹底的に集めました。しかし、これが大失敗。改善点を集めて、ただそれを素直に反映したゲームはどうなるのか。身をもって体験しましたね。ユーザーの“嫌だ”をひとつひとつ潰していった結果、良いところも潰してしまった。

本数は売れたし商売としては成功したんです。でも、ゲームとしての評価はシリーズ中もっとも厳しいもので、“『鉄拳』の個性や良さがない”と言われました。ユーザーの意見を反映させることはとても重要なことなのですが、意見を解釈する側が未熟だと、“嫌”の裏に隠れている本音や欲求に気付けない。“嫌”を集めて修正・改善を目的にゲームを設計しても何も生み出せない。それを当時は理解できていなかった。そういう意味で思い出深いタイトルです」

新作の登場が今か今かと待ち望まれる『鉄拳』ですが、成功の陰には、このようなドラマがあったとは……。しかしそこから何かを学び、後の成功に繋げる姿勢には学ぶものが多いのではないでしょうか。

◆ケトルVOL.51(2019年12月17日発売)

【関連リンク】
ケトル VOL.51-太田出版

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※この記事は、「太田出版ケトルニュース」に当時掲載した内容を当サイトに移設したものです。

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