現在公開中の映画『『X-MEN:ダーク・フェニックス』の原作者は、『スパイダーマン』『アイアンマン』『ハルク』『ソー』『アントマン』など、数々のキャラクターを生み出したスタン・リー。“マーベルコミックの神様”とも称される彼ですが、実は長年ヒットに恵まれず、一時期は「コミックスはいい大人がやる仕事じゃない」とまで絶望した時期がありました。
スタン・リーが自身の進退に悩んでいた頃、ライバル社のDCコミックスの関係者とゴルフに出かけたタイムリーコミックスのマーティン・グッドマン社長は、「ヒーローの集まる作品が大ヒットしている」という話を耳にしました。そこで彼は編集部に戻るやいなや、スタンにこう言ったそうです。
「ヒーローが集まる作品を書け。すぐにだ!」
DCで人気が出た「ヒーローが集まる作品」とは、スーパーマンやバットマンが参加した『ジャスティスリーグ・オブ・アメリカ』。スタン曰く、グッドマンの経営方針とは「世の中で流行っているものを取り込む」こと。『スーパーマン』がヒットした翌年にコミックスの会社を立ち上げ、今度は他社のヒット作まで真似しようとする姿勢に節操のなさを感じるかもしれませんが、これは「初めからお客のいる商売をする」といった「ユダヤの教え」と重なる部分があり、ビジネスを成功させる秘訣とも言えます。
とはいえ、当時コミックスに絶望していたスタンにとってはどうでもいいこと。ただでさえ仕事に限界を感じているのに、個性的なヒーローが集まる作品をすぐ考えろだなんて……。しかし、この無茶ぶりともいえる課題から、ついに彼は自身初の大ヒット作を生み出すことになるのです。
◆「ファンタスティック・フォー」というターニングポイント
急遽ヒーローが集まるコミックスを作ることになったスタンですが、この無茶ぶりについて奥さんに相談したところ、「どうせ辞めるなら好きなことをやってみたら?」という助言をもらいました。これは自分を奮い立たせる大きな転機になったと後に語っています。
スタンは特に理由もなく空を飛べる、ヒーローにありがちなあやふやな設定に嫌気がさしていました。そこで彼は科学的な理由付けを行うことを決めます。NASAの「アポロ計画」の要素を入れ、ロケット発射実験の失敗で宇宙線に被爆したことにより、天才科学者たちのチームにスーパーパワーが身についたことにしたのです。
望んだわけではない特別な力を手に入れた彼らは、その境遇に苦悩しながら戦います。そんなヒーローもののセオリーを破る等身大の姿は読者の共感を集め、『ファンタスティック・フォー』は念願の大ヒットを記録。そして、この成功により、ついにスタンは自身の創作スタイルを確立します。主人公には必ず社会的弱者や破滅的な運命を持つなどの一見ヒーローとは程遠いキャラクター設定を行い、読者の共感性を刺激するストーリーテリングを徹底したのです。ここから彼の快進撃は始まったのでした。
◆ケトルVOL.49(2019年6月15日発売)
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