一昨年から昨年にかけて、世界的な流行語となったのが「フェイクニュース」という単語。2016年の米大統領選をきっかけに、偽の情報が拡散することへの懸念が日増しに強くなるなか、雑誌『ムー』は、フェイクとは言わずとも、真偽が定かでない怪しい情報を長年伝え続けてきました。なぜ『ムー』の記事に読者は惹きつけられるのでしょうか? 『ムー』の5代目編集長を2005年から務めている三上丈晴さんは、スポーツ紙の『東京スポーツ』を例に、このように説明しています。
「例えば、プロ野球の囲み取材で明日の先発を聞くとします。すると監督は『オフレコだから絶対に書くなよ』と言いながら教えてくれます。当然ほとんどの新聞は書きません。でも、東スポだけは書く。そうしたら監督の耳に『情報が漏れた』という報告が入りますよね。もちろん監督は『どこの新聞が書いたんだ!』と激怒します。
でも、『東スポです』となれば、『お前は東スポの記事をいちいち真に受けるのか?』と言うことができる。実は監督も記者に情報を流してほしいんですよ。でも公に『書け』とは言えない。そこに東スポの役割があるわけです」
これは「ムー」も同じ。怪しい媒体だと思われているからこそ「真実」が集まってくるという逆説。実際、これまで「ムー」は何度も「科学的にあり得ない」と言われるものを取り上げては、それが後に大真面目に検証されるということを繰り返してきました。
「何年も前に『この世界は並行宇宙で、そこからタイムトラベラーがやってくる!』という記事を出しました。当時は信じる人がほとんどいなかったのに、今では権威ある科学雑誌の『ニュートン』も『並行宇宙論』を取り上げています。私たちからすれば、『やっと追いついてくれましたか』と言いたい(笑)」
自分たちは最先端の「真実」に触れているという感覚。「ムー」を読むという体験は、そうした優越感に似た感覚をもたらしてくれます。
「だから『ムー』を愛読している人は隠れキリシタンのようなもので、自分からは『読んでいる』と公言しないんです。読者同士も話をしているうちに何かのきっかけでUFOの話題で異様に盛り上がり、『もしかして君も……?』と交流しています(笑)」
しかし三上さんに習って言えば、そうした隠れキリシタン的な要素があるからこそ、「ムー」は読者と雑誌だけでなく、読者と読者も強く結びつける媒体となったのでしょう。まさに唯一無二のブランド。それが「ムー」です。
◆ケトル VOL.43(2018年6月15日発売)
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