昨年12月に亡くなった大瀧詠一は、音楽はもちろんのこと、野球、落語、相撲などにも造詣が深かった人物ですが、2000年代に入ってからは日本映画の研究にも勤しんでいました。小学校時代、先生から「お前なら小津がわかるかもしれない」と、小津映画を見せられたというエピソードを持つ大瀧の研究対象は、主に成瀬巳喜男と小津安二郎でしたが、その研究方法は一風変わったものでした。
もともとどんな興味対象においても、「網羅的に理解するために数を観て全体図を作る」というスタンスを取る大瀧。そのスタンスは映画においても踏襲され、「それこそ毎日2本から4本は映画を見て、目がぐるぐる回っていた」と語っています。中でも石井輝男監督の『網走番外地』シリーズ10本は、なんと2日で全部観たそう。その時に思ったのが「いいものを見つけるにはダメなやつを数見ないといけないんだ」ということだったそうです。
そして大瀧の映画研究の白眉とも呼べるものが、成瀬巳喜男研究における「映画カラオケ」です。これはわかりやすくいうと、ロケ地巡りのようなもの。大瀧曰くこれは、「カラオケに歌手がいないように、映画の場面から役者を抜いてバーチャルな世界を作り、登場人物、または監督の視線でその世界を歩く」というもので、これは未来ではなく、過去に目が向けられている大瀧ならではの発想だったのかもしれません。
大瀧は、研究は自己満足であり、どこにも発表するつもりはないと公言していましたが、雑誌『東京人』(2009年10月号)で、『銀幕の東京』の著者の川本三郎との対談が実現し、成果が披露されました。
そこで大瀧は、映画の舞台を縦横無尽に歩きまわり、『銀座化粧』(昭和26年)と『秋立ちぬ』(昭和35年)における様々な符号やシンメトリーを発見。「映画カラオケ」により、作品の舞台となった新富町という街が、成瀬巳喜男にとっての原風景だったことを発見したのでした。(文中敬称略)
◆ケトル VOL.17(2014年2月15日発売)
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