「はらぺこあおむし」は本当だった? 幼虫がサナギになるメカニズム

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りんご、なし、チョコレートケーキ……、生まれたばかりのあおむしが、毎日いろんなものを食べて成長していく様子を描いた名作絵本『はらぺこあおむし』。空腹の幼虫が満腹になって、サナギや蝶に成長していくのは、一見、自然の理のようだが、実はそのメカニズムについては謎が多かった。

「昆虫ならば幼虫からサナギ、人間ならば思春期、といったように、こどもから大人になる過程には、ステロイドホルモンと呼ばれるホルモンが必要です。この事実は長年知られてきましたが、実はステロイドホルモンがどういうタイミングで作られ、成長に影響を与えているのかについては、分かっていないことがたくさん残っているんです」

そう語るのは、筑波大学生命環境系の丹羽隆介准教授。そして、最近このしくみの一端を解き明かしたのが、丹羽准教授と、日本学術振興会の島田裕子特別研究員の研究グループだ。

「ステロイドホルモンのなかで、昆虫の脱皮や変態に欠かせないのが『脱皮ホルモン』と呼ばれるエクジステロイドです。私達はキイロショウジョウバエというハエの幼虫を使って、このホルモンを合成する器官に連絡する神経を調べました」(島田研究員)

すると、摂食や睡眠などに関わる神経伝達物質のセロトニンを分泌する神経が、前出のホルモン合成器官に作用し、幼虫の成長のタイミングを調整しているということを突き止めた。実際に栄養状態に差をつけて幼虫を飼育してみると、栄養状態が悪い幼虫は、セロトニン神経の軸索がホルモン合成器官に届かず連絡が遅れ、通常よりもサナギになるまで時間がかかった。つまり、はらぺこな虫ほど大人になるのが遅かったのだ。

「『はらぺこあおむし』のように十分な栄養をとれた幼虫はスムーズにサナギになれるけれども、一方で食物が少なく、栄養が足りない環境では、幼虫はステロイドホルモンを作らないように調整して、成長を遅らせる。つまり、幼虫は環境と自分の栄養状態に応じて、成長の速度を調整しているんですね」(丹羽准教授)

なお、今回はショウジョウバエの実験だったが、ほかの昆虫や哺乳類も似たようなしくみを持つ可能性があるとか。

「今後は動物全般の満腹状態と成長の関連性やそのしくみについても研究したいです。ただ一方で、仮にほかの動物にこの機能がなかったとしても、世の中の人に『ショウジョウバエはこうやって成長するんだ』と知ってもらえれば嬉しいですね」(島田研究員)

◆ケトル VOL.22(2014年12月12日発売)

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※この記事は、「太田出版ケトルニュース」に当時掲載した内容を当サイトに移設したものです。