2014年のヴェネチア国際映画祭でグランプリ(金獅子賞)を受賞した『さよなら、人類』が、8月8日から全国公開されている。この作品は、スウェーデンの巨匠・ロイ・アンダーソン監督が、「リビング・トリロジー」と名付け、これまで制作してきた3部作(『散歩する惑星』『愛おしき隣人』)の締めくくりの作品に位置づけられるもの。同作は、どのような意図で製作されたのだろうか? 現在発売中の『クイック・ジャパン』vol.121で、アンダーソン監督は、こう語っている。
「『リビング・トリロジー』は観る者の存在そのものについて考察してもらおうという試みなんだ。作品は『私たちは何をしているんだろう? 私たちはどこに行くんだろう?』と、問いかけてくる。自分たちの存在について、悲劇や喜劇を用いて“生きる喜び”と、人間の存在に対する根源的な敬意についてよく考えることを促そうとしている」
作品の主人公であるセールスマンのサムとヨナタンは、コンビを組んで「おもしろグッズ」を売り歩きながら、人生において逃れようのない宿命に翻弄されている人々に出会う。気が強く強引なサムと繊細で泣き虫なヨナタンは、まるで支配者と奴隷のような関係だが、2人のイメージはどこから着想を得たのだろう?
「文化史における横柄な男と才能のない男の2人組のイメージから拝借している。文学だと『ドンキホーテ』におけるドンキホーテとサンチョ・パンサであり、映画史からだとローレル&ハーディ(無声映画時代から活躍していた1920年代アメリカのコメディアン)のコンビだね」
アンダーソン監督のインスピレーションの源泉は「絵画」だという。『さよなら、人類』は、CGを一切使わず十数名のスタッフと構想15年、撮影に4年をかけて作られたが、アンダーソン監督は、ロシアの画家・イリヤ・レーピンを例に、
「レーピンは11年という時間をかけて1つの作品を完成させた。それは今日では世界遺産の一部にまでなっている。世界遺産を目指せ、というわけではないけど、芸術家として自らの表現を限界まで突き詰めるということ。それは、今は難しくなっている」
と、説明。「ビジネスが映画の表現を奪ってしまっているんだ」と語っている。
◆『クイック・ジャパン』vol.121(2015年8月12日発売/太田出版
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