年度が変わる4月は、色々と新しい出会いがある季節。顔、表情、目、服装、体型……目が行く場所は人それぞれでしょうが、シャーロック・ホームズの場合、彼がチェックするのは“耳”だったようです。よく「目は口ほどに物を言う」といいますが、ホームズにとっては、「耳は口ほどに物を言う」ようです。『ボール箱』でこう語っています。
「人体のうちで耳ほど変化の激しいものはない。どの耳をとってみても、原則として著しい特徴があり、ほかのどんな耳ともちがっているのだ」
この事件では、スーザン・カッシングという女性のもとに「切り取られた2つの耳」が発端となっています。なんとも気味が悪い事件ですが、ホームズは耳だけを手がかりに、あっという間に解決の糸口を見つけます。実はこの耳は別々の人物のもので、ひとつはスーザンの妹の耳。それをホームズは彼女の顔を観察しただけで把握してしまうのです。
というのも、ホームズは以前から耳の特徴について研究し、雑誌に論文を発表していました。だから切り取られた耳を見て、次にスーザンの顔を見ただけで、この2人は姉妹だと見抜いたのです。あらかじめ“耳”に関する研究をしていなければ、事件は迷宮入りになっていたかもしれません。本編を読んだら、いろんな人の耳が気になってしまうこと間違いなしです。
この『ボール箱』は発表当時、「内容が過激すぎる」という批判を受けて、作者のコナン・ドイルは自ら短編集から削除しました。しかし作品への愛着のためか、別の『入院患者』という短編に一部の文章をそっくり使っています。こんなエピソードからも、ホームズの(ドイルの)耳に対するこだわりがうかがわれます。
◆ケトル VOL.29(2016年2月12日発売)
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