2012年に「障害者のための情報バラエティ」として「モテナイ障害者改善計画」「ここが変だよ健常者」など、タイトルだけを見ると、これは果たして笑ってもいいのだろうかと一瞬考えてしまう企画を夜に送り出し続けてきている番組が、Eテレの『バリバラ』です。
『バリバラ』とは「バリアフリー・バラエティ」の略。一般的に障害者の関わる事柄はシリアスに扱われることが多いですが、『バリバラ』は、笑いを交えながらそうした事象と向き合うことで、バリアの前で止まってしまいがちな思考を前進させていきます。
ドキッとする企画といえば、昨年夏に生放送で行われた「検証!『障害者×感動』の方程式」でしょう。出演者はお揃いの黄色いTシャツを着ていますが……そう、この回は毎年日本の夏の終わりに放送されているアノ番組の真裏だったのです。テーマは「感動ポルノ」でした。
この感動ポルノという言葉は、世界的講演会TEDで、自身も障害を持つコメディアン兼ジャーナリストのステラ・ヤングさんが2014年に提唱した言葉。障害を持つ人々が、健常者に勇気や感動を与えるための道具になっていると話したのです。
『バリバラ』は番組冒頭で同講演を紹介し、感動ポルノが生まれるまでの流れをコミカルに徹底検証。レギュラー出演者で難病を患っている大橋グレースさんが架空の感動ドキュメンタリー番組に本人役で出演し、「感動ポルノ番組」で扱われるカットとボツになるシーンを再現していきます。
例えば、感動へのステップとして重要な「大変な日常」を撮るシーンでは、病と闘う障害者の1コマが不可欠です。ベッドで胃ろうカテーテルをつないだグレースさんに、番組スタッフは「大変ですね……」と話しかけますが、グレースさんは「全然大変じゃない、(何もしなくていいので)むしろ楽」と笑顔でいいます。すると「そこ大変な感じでいきましょう」とスタッフ(苦笑)。どこまで本当で、どこからがギャグなのかはさておき、明るいコメントが入ってくると全く感動ドキュメンタリーにはなりません。
見ると爆笑必至のかなりのブラックジョーク企画となっていますが、感動ポルノとして消費されている人の生活であることもまた事実。こうした問題とも、笑いとともに対峙させてくれるのが『バリバラ』の真骨頂といえます。プロデューサーの真野修一さんは、こう話しています。
「ドキュメンタリーで何かを伝えようとすると、1つのゴールに向かって起伏を作りながら物語を紡いでいく必要がでてきます。しかしバラエティなら、そもそも視聴者との距離が近くなりますし、トピックごとに必要な情報を届けやすい。笑いに包まれると、受け手は構えないで情報に触れますからね」
届け方によって、同じ情報も全く違う映り方をするのです。
『バリバラ』
放送開始:2012年4月6日
放送時間:毎週日曜日19:00~19:30
◆ケトル VOL.34(2016年12月14日発売)
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