日本アニメの金字塔『AKIRA』 世界中にフォロワーを生んだ細かすぎるこだわり

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今年100周年を迎えた日本アニメの中で、とりわけ海外で高い評価を誇るのが1988年公開の『AKIRA』です。手塚治虫さんがジョージ・ルーカスのスタジオを訪れた際、

〈スタッフの1人がいきなり「アキラ」をぼくに見せて、「こういうのをアニメにしたいなあ」と言ったのを覚えている。「主人公達のマスクが日本人的ではないのかね」「いや、そんなことは問題じゃあない。要するにこのカミソリのようなタッチですよ。これを動かしたいなあ」。彼はおいしそうにつぶやいていた〉(『ユリイカ臨時増刊号 総特集・大友克洋』より)

と、言われたという『AKIRA』は、いったい何がすごかったのでしょうか。

最大のポイントは、やはり圧倒的な画面の迫力です。原作の大友克洋さんの驚異的なデッサン力をアニメでも表現するため、「ほかのアニメ制作に支障が出る」と言われたほど、日本中から一流のアニメーターが集められました。しかしそれでも大友さんの要求レベルが高く、美術監督の水谷利春さんは、「大友漫画のアニメ化は不可能だと思った」と語っています(『アニメージュ』1988年8月号)。

しかも大友さんは、それだけ苦労した作品を公開後に1億円の追加予算を投じて作り直しています。200カット以上に及ぶ修正のほとんどは、細かい微調整でした。なぜ、それほどまでに細部にこだわったのか? それは『AKIRA』で大友さんが目指したのが「実写のようなリアリティ」だったからです。

例えば、『AKIRA』の演出として有名なものにリップシンクロがあります。通常のアニメでは、キャラクターのセリフと口の動きをぴったり合わせることはせず、3種類ほどの表情を当てはめていきます。しかし大友さんは、その倍以上の絵のパターンを用意し、できる限りセリフと口の動きがシンクロするようにしたのです。

また、現在ではポピュラーな手法となった「カメラで撮影したようなレイアウト」も、同作が広めたものでした。実写映画のようにレンズとフレームを意識した作画(広角レンズは背景が広がって映り、望遠なら背景がぼやける、といった実写のような絵の描き方)をすることで、アニメでありながらも、その光景が現実にあったかのような臨場感をもたらしたのです。

そうしたディティールの積み重ねによって、観客に作品の世界を体感させ、SFアニメでありながらも、絵空事と感じさせないだけのリアリティを生みだす。その強烈なインパクトに、海外の人々も驚愕したのです。

そんな『AKIRA』は、世界中のクリエーターにも影響を与えました。金田のバイクが豪快にスライドするシーン、残像が尾を引くテールランプ、近未来のメカの造形など、あらためて同作を観ると、「どこかで見たことがある」と感じる場面がたくさんあることに気付きます。あまりにも衝撃が大きかったため、意識的であれ、無意識的であれ、マネしてしまう人が世界中に続出したのです。

『AKIRA』が作り上げた印象的なイメージの数々は、今もなおさまざまな作品で目にすることができます。公開から30年近くが経ち、作中で描かれた時代が近付いてきた現在であっても、その衝撃がまったく色褪せない名作なのです。

◆ケトル VOL.35(2017年2月14日発売)

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※この記事は、「太田出版ケトルニュース」に当時掲載した内容を当サイトに移設したものです。