20世紀SF映画の金字塔『ブレードランナー』はどのように生まれた?

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4月14日発売の雑誌『ケトル』は、特集のテーマとして「ブレードランナー」をピックアップ。SF映画の金字塔の魅力を再確認するとともに、人工知能やレプリカントなど、同作が予言した技術について紹介します。1982年の公開以降、多くのSF作品に影響を与えた『ブレードランナー』は、どのように生まれたのでしょうか。

サイバーパンクSFの草分け的存在、カルト映画の傑作など、公開から35年が経っても今なお賛辞の声が贈られ続ける『ブレードランナー』の原作は、フィリップ・K・ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』です。原作の舞台は1992年、生き物がほとんどいなくなってしまった、第三次世界大戦後の崩壊した世界。核戦争によって発生した放射能の塵は、多くの動物や人間の命を奪い、行きていても精神障害や不妊を引き起こしていました。

そして、一部の恵まれた人々は地球外に移住。しかし、主人公の下級警官リック・デッカードは財力もなく、妻とは上手くいかない、うだつのあがらない生活を送っています。彼はある時、火星から逃げ出したアンドロイドを懸賞金のために始末することに──。

『ブレードランナー』の設定は2019年、地球が人の住めない状態になったのは環境破壊、そしてデッカードは独り身と、映画とはずいぶんと設定が違います。ただ、どちらもデッカードが人間に限りなく近い存在との間で葛藤する作品。この「人間とは何か?」という問いが重要であり、原作と映画の物語見どころなのです。そんなテーマに対して、ディックは次のように語っています。

〈いかに本物の人間と、アンドロイドと呼ばれる機械的な人間を識別するかという問題だ。今私達が「人間の生命」として認識している、その価値基準を探すことでもある〉(『ブレードランナー アルティメットコレクターズエディション』収録のインタビューより)

やはり、人間に見えるけど非なるものと、人間の境界が作品の軸だとわかります。そしてディックがこのコンセプトを思いついたのは、同作(1968年)の5年前に刊行された『高い城の男』の執筆期。ドイツと日本が第二次世界大戦に勝利していたらというifの世界を描く物語を書き進める中で、あることに気づいたそうです。

〈『高い城の男』を執筆する際のリサーチとして、ナチスの思考を研究した時に関心を持ち始めた。私は彼らが高い知性を持ちながらも、ある意味決定的な欠陥があることを知った。彼らの知的な行いに伴っていたのは、不適切な情動や感情だったんだ。(中略)私が自分の作品の中で「アンドロイド」や「ロボット」という言葉を使って表現してきたのは、そういう精神的に欠陥のある、もしくは正常ではない状態の、病的な人間を指しているんだ〉(同上)

レプリカント(アンドロイド)と人間を見分けるために行われる「フォークト=カンプフ検査」で設けられている基準は、被験者が感情移入できるか否か。これはディック自身の基準でもあり、作品の持つ一番の問いであることがわかります。そして、人間ではないはずなのに、感情移入ができる存在が現れてしまったら……という「もしも」が、『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』および『ブレードランナー』を形作っているのです。

◆ケトル VOL.36(2017年4月14日発売)

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※この記事は、「太田出版ケトルニュース」に当時掲載した内容を当サイトに移設したものです。

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