巨匠・横山光輝の『三国志』といえば、今から約1800年前の中国、漢帝国が魏・呉・蜀という3つの国に割れた混乱の時代を描いた作品。連載完結から30年が経っても読み継がれる名作です。
そんな「横山三国志」は、1991年10月から翌年9月まで、アニメ版が放送されました。20年以上前のアニメですが、そのクオリティの高さから、「『横山三国志』を『横山三国志』のままアニメ化した唯一の作品」と呼ばれています。そう聞くと未見の人は、「タイトルに横山光輝の名前も入っているし、徹底して原作に忠実なのかな?」と思うかもしれません。しかし、実際は原作をけっこう改変しています。
まずキャラクター描写です。横山作品をアニメ化するにあたって、キャラクターデザインを担当したのは、荒木伸吾と姫野美智というアニメーター。この2人が同作の前に手掛けたのは、なんと『聖闘士星矢』でした。横山作品とは作風が異なり、モデル体型の美男美女キャラクターが活躍する『聖闘士星矢』のスタッフが参加していることで、アニメ『三国志』のキャラクターも原作より頭身が高く、目鼻立ちもくっきりとしています。特にまつ毛の長さはかなり特徴的です。
ほかにも作画監督として『北斗の拳』や『魁!!男塾』などで知られる斉藤浩信などが参加。その結果、原作の名場面の数々がアニメではより熱く、ドラマティックに描かれています。
これらは「横山三国志」の忠実なアニメ化を望む人には好みが分かれるところかもしれませんが、全国の視聴者が観るアニメ作品としては、当時の流行を取り入れて間口を広げようとしたのではと考えられます。
また、こうした工夫はストーリー構成にも凝らされています。「横山三国志」をアニメ化する際に問題となるのは、登場人物が多く複雑な物語をいかにわかりやすく伝えるか。あるいは、物語の全貌が把握できなくても、アニメとして視聴者の興味をいかに引っ張っていくのかという点です。
そこでアニメ「横山三国志」では、原作に登場しないキャラクターを登場させています。それが「香蘭」という女性キャラクターです。彼女は最初、劉備の教え子として登場し、成長してからは妻となります。物語を通して主人公を支えるキャラクターを登場させたことで、限られた話数(全47話)の中で、視聴者が劉備たちに感情移入しやすく構成しているのです。
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