強くあるだけではダメ ゾンビドラマに学ぶ“混乱の時代を生き抜く統率術”

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世界中でナショナリズムの風が吹き荒れ、環境、食糧、エネルギー、核開発……のっぴきならない問題は山積み。こんな時こそ統率力があるリーダーが求められます。そのための良きモデルケースとなるのが、アメリカの連続ドラマ『ウォーキング・デッド』の主人公・リックです。

ゾンビパニックにより崩壊した世界で、数少ない生き残りの人間たちが、それぞれのやり方で必死に生き延びようとする姿を描いた同作。リックはもともと保安官だったことから、ドラマの冒頭から家族や仲間たちを率いるリーダーとして振る舞い、周りも彼にその役割を期待します。

しかし、そこはゾンビたちがうごめき、従来の倫理観が通用しなくなったアメリカ。初めの頃は保安官らしく、人間として正しい行いを自分にも仲間にも求めていましたが、次第にきれい事だけでは生きていけない現実に直面します。元同僚の親友までが自分を裏切り殺そうとしたことをターニングポイントに、リックはこれまでの常識を捨て、弱肉強食的な“強いリーダー”へと変わっていくのです。

自分たちを危険に晒す相手には、たとえ人間だろうと容赦しなくなったリック。精神的にもタフになり、これで家族も仲間も守れる……かと思いきや、なんと自分たちがゾンビや襲撃者を殺しまくっているうちに、幼い息子が人を殺しても罪悪感を抱かない冷血な性格に変わってしまっていました。

再び考え方を変えたリックは、リーダーとは力で人を導くだけでは十分ではなく、思いやりを欠いてもダメなのだと気が付きます。敵対する相手には断固たる措置をとるものの、仲間に対しては互いに尊重し合う気持ちを忘れず、「オレたちは“家族”だ」と積極的に口にするようになります。人の道を外れそうになった息子に対しても、混乱した時代だから生きるためには何でもありだと教えるのではなく、「正しい行いとは何か」を地道に辛抱強く語りかけるようになったのです。

そうしたリックの態度を「甘い」と非難する人も登場しますが、もうリックは自分の信念を曲げたりしません。数々の障害に行く手を阻まれながらも、共に生きる仲間の絆を忘れず、良きリーダーとして振る舞っていくのです。

よくビジネスの世界では、「立場が人を作る」といいます。リックもゾンビパニックの前は、ただの善良な保安官であり、人の上に立つような人物ではありませんでした。しかし実際に悪戦苦闘しながら仲間を率いることで、次第に立派なリーダーとなっていきました。人の上に立つ能力とは才能ではなく、まさに実践によって身に付くということを教えてくれるドラマです。

◆ケトル VOL.38(2017年8月16日発売)

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※この記事は、「太田出版ケトルニュース」に当時掲載した内容を当サイトに移設したものです。

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