「死者が蘇り、生きた人間たちを襲い、食い尽くしていく」──そんな過酷な世界を描くゾンビ作品が今、日本中で大人気となっています。ハロウィンのコスチュームでもゾンビは大人気ですが、実は仮装などしなくても、我々の体内には”ゾンビ的な要素”があるのです。
2016年6月、科学雑誌『Science』に、ワシントン大学の微生物学者ピーター・ノーブル氏たちが「ゾンビ遺伝子」を発見したというプレスリリースが発表されました。人を含む生き物の体内には、肉体が死を迎えたあとに目覚める遺伝子があるというのです。なんと魚のケースでは、死後4日たってもこの遺伝子は活性化したままだったそうです。
この「ゾンビ遺伝子」はたとえば、炎症を促進させたり、ストレスを和らげたりするはたらきを持っていたほか、生まれたあとには必要のないはずの、胚の形成に役立つものも。また、ガンを促進する遺伝子が活発になることも発見され、ノーブル氏は死亡した人から移植を受けた人のガン発症リスクが高くなる現象の理由になるとしています。私たちの体にはゾンビ的な遺伝子がいる。これは衝撃的な事実です。
さて少し目線を変えてみると、死なずに蘇り続けるというのもある意味ゾンビ的。温帯から熱帯の海域に生息するベニクラゲは、衰弱すると肉塊になって若返り、そこから再び成長することから“不老不死のクラゲ”と呼ばれています。
その生態を人間に応用できるかはまだ分かっていませんが、人間には脳があるため難しいという説も。逆にこれからの時代は、映画『トランセデンス』のように、肉体はなくても意識だけを人工知能に移植して生き続ける“ITゾンビ”として蘇るパターンも考えられます。蘇生が可能になる未来は意外と近そう。ただ、蘇った人が人間を襲わないかどうかは……また別のお話です。
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