仲間がいなければゾンビと同じ ゾンビが教える友達の作り方

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現代の私たちは、確かに一人で生きていけるのかもしれません。欲しいものはなんでもネット通販で家まで届くし、最新情報はスマホから処理しきれないほど入ってくるし、どんな娯楽施設だって勇気さえあれば一人で楽しめるようになっています。ゾンビのいない世界は、「お一人様」に優しいのです。

しかし、そんな自由で気楽な世界にゾンビが出現したら、人は一人で生き残れるのでしょうか? 映画『ゾンビランド』(2009年)の舞台はゾンビがさまよう終末世界を迎えたアメリカ。元ひきこもりの主人公・コロンバスが、ゾンビから逃れる旅の中で仲間と出会い友情の大切さに気づいていくという、青春ロードムービーテイストな異色のゾンビ映画です。

ゾンビ化したアパートのお隣さんに襲われたことをキッカケに、外へ出たコロンバスは「有酸素運動(走って逃げる)」「二度撃ちして止めを刺せ」「トイレに用心」「後部座席を確認しろ」など、生き残るための32のルールを作り、誰とも話さず共闘せず、たった一人で二連式の銃を抱えて車中泊を続け、危険を回避しながら生き延びていました。

しかしひょんなことから、やけにアウトローな最強のゾンビハンターのタラハシーに出会い、一緒に旅をすることに。そして二人して美少女詐欺姉妹のウィチタとリトル・ロックに騙され、結局は4人でゾンビがいないと噂されるカリフォルニアの夢の遊園地を目指します。タラハシーは乱暴者で、ウィチタとリトル・ロックは超のつく人間不信。性格に難ありな4人は、ゾンビでも出現しなければ出会うことはなかったでしょう。

ゾンビ映画といえば、緊張感と悲壮感が漂う中でパニックを引き起こし、社会問題を突きつけられ……という作風が王道ですが、同作はゾンビも暗いシーンもかなり少なめ。逆に、それぞれに悩みや苦しさを抱える孤独な4人がひとつの車の中で昼夜を共にしながら互いに絆を深めていく様子が、コメディ要素もたっぷりに描かれます。

物語の最後、遊園地でゾンビたちとの戦いを繰り広げ(最初で最後の本格的ゾンビ映画らしいシーン)、再び旅を続けるコロンバスたち。彼らが無事にゾンビのいない夢の土地へたどり着けたのかは明かされませんが、ひとつだけわかるのは、誰ともつながりを持たずに生きていたコロンバスは、ゾンビの発現によって人間らしさを取り戻したということ。こんな世界にならなければ、彼は一生自分ルールの中で生きていたはず。でも仲間との共闘を終えた後、コロンバスはこう言います。「仲間がいなきゃゾンビと変わらない」と。

ゾンビがいたって、ルールをガチガチに固めて人間不信を貫けば一人で生きていけます。でも、友達の大好物を一緒に探したり、可愛い女の子に煩悩を抱いたり、仲間とたわいないおしゃべりに花を咲かせたりするひとときは、ゾンビがいると余計に眩しい。ゾンビは私たちに、人間として当たり前の楽しさを思い出させてくれるありがたい存在なのです。

◆ケトル VOL.38(2017年8月16日発売)

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※この記事は、「太田出版ケトルニュース」に当時掲載した内容を当サイトに移設したものです。

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