テクノロジーの進化は、常に人間への脅威と隣合わせになるもの。急激に進化するAI(人口知能)は、防犯や犯罪捜査にも適用が可能だが、それが進みすぎると、人権を脅かすことにも繋がりかねない。『図解でわかる 14歳から知っておきたいAI』(太田出版/インフォビジュアル研究所)では、中国が開発中のAI監視システムについて紹介している。
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人々の暮らしの安心・安全を目指すセキュリティの世界は、AIの登場で大きくその姿を変えようとしています。監視の無人化、万引き犯を認識する監視カメラなど、様々なAIシステムが誕生しています。これらのAIの働きは、歓迎すべき点と同時に、そこに潜む問題も露呈し始めています。
その典型が中国の例です。中国には「天網恢恢疎にして漏らさず」という古いことわざがあります。天にある網は悪人を漏らさずにつかまえる、といった意味で、悪事は必ず露見し、その報いがある、と人々を諭してもいます。このことわざの天の網が、中国で実際に稼動し始めています。その名も「天網」、中国の都市の街路に設置された2000万台のAI監視カメラのネットワークです。このカメラが交差点をとらえ、横断する人々を映し出します。その人々の姿の隣に、その人物の属性データが表示され、その人物は画面上で追尾され、必要があれば次のカメラで、追尾は継続されます。
このAIカメラには、顔認識機能が搭載されていて、雑踏に紛れる犯罪者を発見し、警察への通報も自動で行われるといいます。それができるのも、国民の身分証明書の顔写真を登録できる中国政府による治安対策の賜物。文字通りの「天網」システムが、現実となったわけです。
中国には、「天網」があれば「天耳」もあります。こちらは安微省で進められている、一般市民7万人の声紋データを登録したAI音声認識システムです。このデータと、公安当局が把握するウイグル族やチベット族のテロリストの声データを付き合わせ、テロリストを特定しようとしています。この試みに対し、国際的な人権団体は強い懸念を表明しています。
中国では、もっと極端なAIセキュリティシステムの開発も行われています。それは「犯罪者の事前認識システム」です。中国には数千年の歴史をもつ、観相術という人相占いがあります。この人相学の知見と、最新のAI顔認識システムを使い、犯罪者特有の特徴を抽出し、その特徴をもつ犯罪者予備軍を、監視カメラから探し出そうという試みです。
このような試みが実行される社会とは、治安のためならば、何でもありの社会。まさにジョージ・オーウェルが小説『1984年』に描いた管理社会そのものです。中国の例は、AIによるセキュリティシステムの構築が、その運用思想によっては、巨大な監視システムになりかねない恐ろしさを私たちに教えてくれます。自身の安全と社会の治安、そして市民の人権の問題は、これから深い論議が必要な領域でもあるでしょう。
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AIが進歩することによって、人間が生きにくくなるようでは、まさに本末転倒。身の安全や治安の維持と人権のどちらが大事なのか? まさかその決定まで、AIに委ねることにならなければ良いが……。
【関連リンク】
・図解でわかる 14歳から知っておきたいAI
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