人として生きていれば、漠然とした不安を感じる瞬間は必ずあるもの。明確な理由が見当たらないものの、何となく感じてしまう不安に対し、人はどう立ち向かえば良いのか──。ニッポン放送アナウンサーの吉田尚記が、ツイキャスやニコニコ生放送で話した内容をまとめた『没頭力 「なんかつまらない」を解決する技術』(太田出版)では、こういった不安に立ち向かう技術(=没頭力)について解説している。なぜ吉田は「没頭」が素晴らしいものだと思うようになったのか? 同書ではこのようにつづられている。
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「なんとなくつまらない」とか「漠然とした不安」。こういう感情を完全に消し去ることはできなくても、それを忘れているときって、割と身近にありませんか。それは何かに「没頭」しているとき。何かに夢中になって没頭しているときって、つまらなくもないし不安でもないですよね。僕自身、今こうして喋っている段階で、もうほぼ没頭に近い状態にあります。ラジオの本番のときなんかも、実はいつもそうです。
そこで「没頭」という言葉を掘り下げてみると、「ポジティブ心理学」という学問にたどりつきました。「ポジティブ心理学」というのは、1990年代の終わりに、全米心理学会会長のマーティン・セリグマンという心理学者が提唱した新しい学問分野です。そこで彼は人間が幸福を感じるための要素は「快楽」「意味」「没頭」であると定義した。「没頭」は幸福の一要素。そこで僕は「おお!」と思ったんです。
幸せの要素として「快楽」はわかりやすいですよね。ご馳走を食べて美味しいとか、遊んでいて楽しいとか。自分が心地よいと感じること。「意味」は、有名になりたいとか、人より高い地位にのぼりつめたいとか、あるいは誰かの役に立ちたいというように、人生を有意義なものとする考え方。これも割とストレートに幸せとつながります。
それに対して「没頭」は、何かに夢中になって時間を忘れてしまうくらいの強烈な集中状態にあること。その瞬間は、楽しいとか幸せとかそんなことは考えていませんよね。けれど、それも幸福を構成する要素のひとつだという。そのことを知って僕は自分が今こんなに毎日楽しいのは、何かに夢中になって「没頭」している時間が多いからだったんだ、と確信できたわけです。
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上で挙げられた「快楽」や「意味」は、幸せの1つの指標として分かりやすいが、「没頭」に関しては、割とないがしろにされている感は否めない。「気が付いたら○時間経っていた!」という経験は、誰しも一度や二度はあるはず。ムダにも思える「時が経つのを忘れた」という経験は、実は幸せのキーワードだったのだ。
【関連リンク】
・吉田尚記著『没頭力 「なんかつまらない」を解決する技術』-太田出版
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