領土問題、経済問題、知的財産権の侵害など、日本と中国の関係は混迷を極めている。世界最大の人口を誇る中国は、日本経済にとって大変な脅威だが、中国の習近平主席は、中国のさらなる発展を目指し、「一帯一路(いったいいちろ)」という経済圏構想を打ち出している。
“中華帝国の復興”を目論む一帯一路とはいったいどのようなものなのか? 『図解でわかる 14歳から知っておきたい中国』(太田出版/北村豊・監修/インフォビジュアル研究所)では、このように説明している。
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2012年11月、中国共産党総書記に就任した習近平は、「中華民族の偉大な復興の実現が、近代以降の中華民族の最も偉大な夢である」と述べて「中国の夢」の実現を提起しました。「中国の夢」が意味するものは何なのでしょうか。
それは、失われたかつての中華帝国の栄光を取り戻すことです。1820年の清国のGDPは世界の約33%を占めていました。現在、アメリカのGDPは世界の約24%ですから、それがいかに大きなものであったかがわかります。
ところが、19世紀に中国を支配していた清朝がイギリスとのアヘン戦争に敗れてから、1949年の輝かしい社会主義中華人民共和国の誕生まで、屈辱の歴史が続きました。この屈辱の歴史を超えて、中国が世界の大国であった中華帝国の威信を取り戻すこと、それが「中華の夢」です。
◆東西を結ぶ新シルクロード構想
習近平は、その具体像として「一帯一路」と呼ばれるシルクロード経済圏構想を打ち出しています。これは、陸のシルクロードといわれた中央アジアを通る西域路と、海のシルクロードといわれたインド洋北部を通る南海路を現代に蘇らせ、中国が主導する経済圏に組み込み、自国の繁栄を目指すものです。
この「一帯一路」には周辺65カ国が含まれ、そこに暮らす人々は44億人にものぼります。つまり世界の人口の6割がこの経済圏に包まれることになります。またその経済規模は21兆ドルにものぼると予測されています。現在の中国がもうひとつできるほどの規模です。
現時点ではGDP世界第1位はアメリカですが、第2位の中国の追撃は激しいものがあり、このまま中国の経済成長率が上昇を続け、「一帯一路」が実現すれば、2024年前後には中国がアメリカを抜いて世界一の経済大国になる可能性は高いといえます。この「一帯一路」構想を現実のものとするために、域内国に向けての資金供給を目的としたアジアインフラ投資銀行(一帯一路だけのものではないと、銀行は主張していますが)やシルクロード基金が設立されています。
しかし、この「一帯一路」構想は、周辺国では、賛意ばかりで迎えられてはいません。中国と対抗するインドは参加を拒否し、政権交代の起こったマレーシアでも、東海岸鉄道計画に赤信号が灯っています。
周辺国が抱く「一帯一路」への疑念は、中国の強引な経済進出に対する警戒心からくるものです。スリランカのように、過大な港湾施設の借金が返済できず、債権として港湾そのものを中国に奪われた事例がその典型です。習近平の「一帯一路」の未来は、まだ未知数といえるでしょう。
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現時点では「道はるか」といった状況だが、壮大なプランを打ち出す姿勢は日本も見習いたいところ。野心的な習近平氏の動きには、今後も注目が必要となりそうだ。なお同書ではこのほか、大国・中国がかかえる社会問題、現代中国の普通の暮らし、中国社会の基礎となる中国共産党などをわかりやすく図解と文章で解説している。『図解でわかる 14歳から知っておきたい中国』(太田出版/北村豊・監修/インフォビジュアル研究所)は、2018年7月11日(水)発売。1200円+税。
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・図解でわかる 14歳から知っておきたい中国
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