「データはコピーされ、無料になる」 技術の発達は音楽を滅ぼす?

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かつて、アーティストが丹精込めて作った音楽を楽しむためには、レコード、CD、カセットなどを買うのが当たり前でしたが、その常識を破壊したのが「ファイル共有ソフト」。2000年代の前半に世界中を跋扈したファイル共有ソフトは、音楽業界に激震を与えました。

コンテンツがデータになるということは、それがコピー可能であるということを意味します。そしてコピー可能なものの値段は、すべて無料に近づいていく――。こうしたIT時代になって唱えられた説は、ゼロ年代の音楽業界にとって他人事ではありませんでした。ファイル共有ソフトが違法コピーされた音楽コンテンツを世界中に無料で拡散させていたからです。

ファイル共有ソフトとは、その名のとおり不特定多数のユーザーが互いのファイルを共有することを可能にするソフトウェアのこと。1999年のNapster の誕生によって世界へと広がり、WinMXやLimeWire、Winny などのソフトが、その代表とされます。こうしたファイル共有ソフトは世界中の音楽がパソコンとインターネットさえあれば無料で手に入るとまで言われたほど普及し、各国の音楽業界に対応を迫りました。

2002年に日本で導入されたCCCD( コピーコントロールCD) は、その対策として考案されたものでした。しかし、iPod などで個人的に聴くためのコピーすら制限してしまったことからユーザーが猛反発。CCCDでリリースされたアルバムは買わないと断言する人まで現れました。CD離れを食い止めるために考案されたものが、かえってCD離れを引き起こす状況を招いてしまったのです。

2005年にYouTube、さらに2007年にスマホが登場すると、ファイル共有ソフトの利用者は徐々に減少してきました。しかし、それは以前より手軽に違法コピーされた音楽が聞けるようになったから利用されなくなっただけであり、「テクノロジーの発展により音楽が無料になる」という大問題を音楽業界が乗り越えるためには、まだまだ長い時間を必要としたのです。

◆ケトル VOL.44(2018年8月17日発売)

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※この記事は、「太田出版ケトルニュース」に当時掲載した内容を当サイトに移設したものです。

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