コウモリの恐るべき能力 「超音波で捕食」「声と耳は戦闘機のレーダー並」

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涼を取るために夕暮れの川沿いなどを歩いていると、しばしば遭遇するのがコウモリ。吸血鬼につながるイメージで語られることも多いコウモリは、万人に好かれているとは言い難い生き物だが、実は類まれなる能力の持ち主だ。動物行動学者の松原始氏が動物観察についてつづった『カラス先生のはじめてのいきもの観察』(太田出版)で、松原氏はこう解説している。

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コウモリは不思議な動物だ。哺乳類の中で、いや、脊椎動物の中で、鳥類とタメを張って動力飛行を行うのはコウモリしかいない。空中で餌を捕まえるという無茶なことをやるのも、鳥とコウモリくらいだ。トビヘビもトビトカゲもムササビもモモンガもヒヨケザルも、敵から逃げる時や、木から木へ移動する時に滑空するだけである。

コウモリというとむやみにパタパタして効率の悪い飛行体に見えるかもしれないが、ああ見えて運動性は極めて高い。小回りという点では鳥にひけを取らないどころか、短い体長を生かしたアクロバティックな機動は、むしろ鳥を上回るほどだ。夜間飛行に特化することで、鳥と競合しないように進化したのがコウモリである。

夜空を飛びながら昆虫を捕食することに限れば、コウモリは鳥よりもはるかに上手だ。昆虫だけでなく、ウオクイコウモリやユビナガホオヒゲコウモリのように、水面直下を泳ぐ魚を探知して、水面をかすめて飛びながら魚を捕食するものまでいる。まあ、捕食者のいない島ではコウモリも飛ぶのをやめて、あの歩きにくそうな体で地面を歩いて昆虫を食べていたりするそうだが。

コウモリは人に聞こえる声も出すが(キッキッキッ、というような声が聞こえる場合がある)、有名なのは闇夜に餌を探すための超音波だ。イルカなどと同じく、エコーロケーションと呼ばれる。なお、昼行性のオオコウモリ類は超音波を出さず、視覚や嗅覚で果実を探して食べている。また、細かいことを言えば、コウモリの超音波にもいくつか種類があって、生活環境によっても違いがある。

コウモリが超音波を発すると、音は前方に向かって飛んで行く。前方がただの虚空なら音はそのまま消えて行ってしまうが、何かが空中にいた場合、それに当たった音波が跳ね返ってくる。これを聞いて相手の存在を知るのが、エコーロケーションだ。

原理としては、人間の発明したレーダーに似ている(レーダーは電波を使うが)。あるいは、闇夜に向かって懐中電灯を照らす、と言ってもよい。この場合は音波ではなく光だが、「何かに当たって跳ね返って来た光だけが見える」という原理は、やはり同じである。

だが、考えてみたらこれは恐ろしい能力だ。まず、指向性の高い超音波を作り出して効率よく発射しなければならない。コウモリの声の音圧はかなり高い。つまり、人間には聞こえないが、体に見合わないほど大声を出しているのだ。大学生の時に、動物行動学者の日高敏隆先生が講義で話しておられたが、アメリカの洞窟でコウモリの群れとすれ違うたびに、耳の奥にガツンと衝撃を感じたという。

ちなみに、その大声を一番近くで聞いているのは鳴いているコウモリ本人なのだが、彼らは自分の耳を守る能力も、ちゃんと持っている。例えば、超音波を発振する瞬間は聴覚の感度を瞬間的に下げるなどだ。コウモリの声は断続的なパルスで、連続して鳴いているわけではない。

音を出したら、今度は跳ね返って来た音を正確に捉えなくてはいけない。音の角度を正確に測定しなければ、相手のいる方向がわからない。さらに、音を発信してから反射してくるまでの時間を測定しないと、相手までの距離がわからない。コウモリの大きな耳は伊達ではなく、こういった「アンテナ」の機能を果たすようにできている。

コウモリの耳の能力はこれだけではない。反射の強さから相手の大きさも判断している。ドップラーシフトを利用して、相手が遠ざかっているか、近づいているかもわかっている(遠ざかる相手からの反射波は周波数が伸び、近づいている相手からの反射波は周波数が縮む・救急車のサイレンの音が通り過ぎた瞬間に低くなるのと同じだ)。

また、羽ばたいている昆虫に当たった超音波は、羽の動きによって反射音の周波数に揺らぎが出る。なるべく効率よく餌を得るためには、相手の正体や大きさや動きを知るのは極めて重要だ。さらに、最初は比較的継続時間の長いパルス音で周囲を探っておき、相手までの距離が近づくにつれて短い音を高頻度に出して正確に捕捉する、という能力もある。

コウモリの声と耳は、ほとんど戦闘機のレーダー並の機能を持っているのである。この結果、コウモリは暗闇でも、数メートル以内にいる虫を探知して追いかけることができる。彼らの体長がせいぜい10センチだということを考えれば、人間にとっての50メートル圏内くらいに相当するだろうか。

我々が懐中電灯を持って歩くより、よっぽど周囲がよく「見えて」いるわけだ。彼らは目の前の反射に反応するだけでなく、周囲を探査して何匹もの虫の位置を把握し、効率よく捕食できるように飛ぶことも知られている。

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正直なところ、見た目が不気味なコウモリだが、まさかそんな能力の持ち主だったとは、ただただ驚くばかり。このほか、「双眼鏡事始め」「図鑑の使い方」「空飛ぶものへの憧憬」「台風の夜」「足もとの昆虫学」「水たまりの生態系」「獣道の見つけ方」などについてつづられている。

【関連リンク】
カラス先生のはじめてのいきもの観察

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※この記事は、「太田出版ケトルニュース」に当時掲載した内容を当サイトに移設したものです。

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