近年、エンタメ業界で目立つのが、漫画が原作の作品。すでに多くのファンがいる作品がアニメ、ドラマ、映画になれば、ヒットはなかば約束されたようなものだが、その逆パターンが、映画の漫画化=映画コミカライズだ。映画のコミカライズはいつから始まったのか? 『シネマズPLUS』公式コラムニストで、映画コミカライズ作品のコンプリートを目指している滝口明氏は、2018年11月20日発売の『CONTINUE Vol.56』内での座談会でこう語っている。
「追いかけられる範囲で言うと、1954年の初代『ゴジラ』コミカライズですね。その後、各少年誌で東宝特撮モノが続々コミカライズされていきます。この当時は東映チャンバラも子供人気があったので『はやぶさ奉行』(1957年)といった時代劇ものも別冊付録としてコミカライズされています」
その後、1970年代には色々な雑誌で色々な作品がイレギュラーに漫画化されていたのだそう。映画製作は莫大な費用がかかるだけに、チェックもさぞかしうるさいのかと思いきや、当時はかなり牧歌的だったようだ。
「『ダーティハリー2』(1974年)などを描かれている、すがやみつる先生にSNS経由で訊ねたことがあるんです。すると『1~2回は作品を観るけど、映画会社のチェックは特になかった』と。また『ハウス』(1977年)を描かれた三浦みつる先生は『台本とスチール写真が送られてきただけで映画は観ていません。台本のラストシーンに“ここから先は何が起こるかお楽しみに“と書かれていたので、ラストはかなりアレンジしました』とおっしゃっていました。
以前、大林宣彦監督にお会いした際『コミカライズでアレンジされるのは、監督からしたらイヤじゃないんですか?』と訊ねたところ『いや、それが作品にとって幸せなことなんだ。映画の世界とマンガの世界があって、それぞれでいいものができるのが一番いいんだよ』とおっしゃっていましたね」
これも権利関係が緩かった時代ならではのエピソードだが、「あまりスターに似せすぎて描いてしまうと肖像権が発生するので微妙に似せていない」のも特徴なのだとか。隆盛を誇った映画コミカライズの魅力はずばりどこなのか? 滝口氏はこう語っている。
「映画を窓口にしたマンガ作品ならではの楽しさ、ですね。コミカライズ時、掲載誌に合わせたアレンジがなされていることがあるんですが、そのアレンジがオリジナルを凌駕したときの多幸感。それを味わってしまうと、もう追いかけずにはいられません」
映画コミカライズという文化は今では廃れてしまったが、滝口氏は「映画を10分ほどで理解できるメディアって、なかなかないですから」「オリジナルよりもつまらなくなることは、あまりない」と、その意義を主張。日本は世界でも有数の“映画を見ない国”として有名だが、それを打破するカギは、漫画コミカライズにあるのかもしれない。最後に滝口氏が選んだ、映画コミカライズ黄金期の名作を、邦画作品の中から紹介しよう(各作品の説明は滝口氏)。
・『レッツゴー! 若大将』(中島利行/なかよし/1967年2月号別冊付録)
1960年代の映画コミカライズが、実は少女マンガ誌でも盛んに行われていたことの証明となる本作。加山雄三だけでなく青大将やおばあちゃんなど、登場人物の再現度が非常に高いのも見所。「加山雄三さん」と必ず記載されているのが、当時の映画スターとファンとの距離感を良く表していて実に興味深い。
・『ノストラダムスの大予言』(高山よしさと/別冊少年チャンピオン/1974年9月号)
未だに未ソフト化の日本映画史上屈指の問題作が、『月刊少年チャンピオン』誌上でコミカライズされていたという事実! 本作中には人喰い人種描写もちゃんと登場するが、公開当時に問題視されたミュータントの登場はコミカライズ版でも実現していない。映画本編を観ることができない現在では非常に貴重な資料だ。
・『惑星大戦争』(居村真二/月刊少年マガジン/1978年1月号)
映画ではアイドル時代の浅野ゆう子が演じたヒロインが、本作ではなんと全裸にされて敵宇宙人に拷問されるという、男の願望を叶える奇跡のアレンジでも有名な、伝説のコミカライズ作品。ちなみに映画版で浅野ゆう子が着ていた黒のボンテージ風の衣装が、本人の私物だったというのは有名な話。
・『愛の陽炎』(永久保貴一/月刊ハロウィン』/1986年3月号)
1980年代に突如として登場した、この呪いのわら人形映画。これがコミカライズされており、しかもあの『バタリアン』と同時掲載されていたという奇跡に感謝! 掲載誌がホラーマンガ専門誌『ハロウィン』だったためか、内容もホラー寄りに振り切っていて、映画とはまた違った面白さが楽しめる作品となっている。
◆CONTINUE Vol.56(2018年11月20日発売)
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・CONTINUE Vol.56
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