完璧主義者だった伊丹十三監督 撮影現場で貫かれた尋常ならざるこだわり伝説

カルチャー
スポンサーリンク

先日、映画関係者の間で話題となったのが、2月第1週の週末の映画興行ランキング。1位の『七つの会議』以下、『マスカレード・ホテル』『雪の華』『十二人の死にたい子どもたち』というランキングでしたが、実写の日本映画が上位4位までを独占するのは5年ぶりのことでした。

こういった結果からも分かるように、日本映画は海外作品に押されがちで、ヒット作もアニメ作品ばかりですが、昭和から平成にかけ、実写のヒット作を量産したのが伊丹十三監督です。『お葬式』や『タンポポ』『マルサの女』など、話題作を連発した伊丹監督ですが、一方では完璧主義者としても知られています。

自身が納得いくまで撮影を繰り返すほか、普通の監督なら多くて4回程度で終わる編集も尋常ならざる細かい作業を繰り返しました。その徹底ぶりは、自身のみならずスタッフにまでおよび、例えば『お葬式』の撮影時には、メイクの担当者に死相の研究を依頼。実際の葬儀にも参加させてリアリティを追求させました。また、ロケハンにも膨大な時間を費やし、一度決めた場所も後になって覆すことがあったようです。

その一方で、撮影中に怒ることはほとんどなく、役者たちへのダメ出しも最小限だったそう。ただし、アドリブで台詞を言うことだけは絶対に許しませんでした。「昨日は気分が悪かったわ」を「気分が悪かったわ、昨日は」と少しニュアンスを変えるだけでもNGにしました。

そうしたこだわりの背景には、伊丹さんなりの映画への考えがありました。彼にとって映画は、フランス料理のフルコースのようなものでした。流れと型があり、そのうえでひとつずつのエピソードをいかに面白く仕上げていくかに意識を向けていたのです。そんなこともあり、宮本信子さんをはじめ、俳優陣は時間があれば台本を読むことに余念がなかったそうです。

こうした伊丹さんのこだわりは、撮影や編集が終わってからも続きます。宣伝用のポスターやパンフレットにも全て目を通し、1ミリ単位でデザインの修正を依頼することも。そして原稿は自分で書き、入稿までしていたそう。そんな離れ業ができたのも、映画監督になるまでに商業デザイナー、俳優、タレント、エッセイスト、テレビ番組制作など、様々な経験を積んできたからこそ。1つの目標に向かって突き進むのも、それはそれで素晴らしいことですが、色々な”寄り道”を経て優れた作品を残した彼の生き方には学ぶことが多そうです。

◆ケトルVOL.47(2019年2月15日発売)

【関連リンク】
ケトルVOL.47-太田出版

【関連記事】
20世紀SF映画の金字塔『ブレードランナー』はどのように生まれた?
日本アニメの金字塔『AKIRA』 世界中にフォロワーを生んだ細かすぎるこだわり
「BTTF Part1」の行き先が1955年だった深い理由
PC使わぬウディ・アレン監督 コピペはハサミとホッチキスで処理

※この記事は、「太田出版ケトルニュース」に当時掲載した内容を当サイトに移設したものです。

関連商品
ケトルVOL.47
太田出版