会社員として働いていると、しばしば登場する単語が「ノルマ」。これを達成できない社員は“無能”のレッテルを貼られることになるが、そもそもノルマとはどういう意味なのか? 「目標」と「ノルマ」は何が違うのか? 『ノルマは逆効果 ~なぜ、あの組織のメンバーは自ら動けるのか~』(藤田勝利・著/太田出版)では、ノルマについてこのように解説している。
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ノルマという言葉を調べてみると、以下の意味が紹介されていました。
「ノルマ(ロシア語:Норма、ラテン文字転写Norma)とは、半強制的に与えられた労働の基準量であり、大抵の場合時間的強制も付加される。」(Wikipediaより)
ずいぶんおどろおどろしい定義です。第二次大戦以後、シベリアに抑留された兵士たちによって、『ノルマ』という言葉が日本に入ってきたと言われています。シベリアにおいては「必要最低限こなさねばならない労働量」という意味でこの言葉が使われていました。この定義を見るだけでも、その苦役の過酷さや痛みが伝わってきて胸がしめつけられる思いです。
しかし、この定義は、本当に「過去」のものでしょうか。この「半強制的に与えられた労働の基準量」は現代の多くの企業にいまだに根強く残っています。もちろん、シベリア抑留の時代とは状況は異なります。飢えや寒さもないかもしれません。しかし、「会社で保証(社員としての安定、社会的ステータス、少しでも良い査定やボーナス)を得るために、果たすことを強要される義務」は多くの会社に残り、人の働きがいや主体性を著しく奪っています。
◆現代組織における「ノルマ」
先日、ある経済誌でマネジメントに関する寄稿をさせていただきました。現代のビジネスパーソンが、自ら目的を持ち、自身が内面に持つ資源を生かして、主体的に成果を挙げていく働き方、「セルフマネジメント」の考え方を書いたものでした。その記事に対して、ある読者の方から次の率直なコメントをいただきました。そのまま掲載します。
〈知り合いのご子息は、誰もが名を知る総合電機メーカーで開発の仕事をしている一年目だ。彼は自分の働き方をコントロールすることなどまったくできない状況の渦中におり、まるでなにかのワナに嵌まったかのように身動きが取れずに過重労働を重ねる彼が、辞めるか死ぬか体を壊す以外の方法でそこから抜け出せるだろうかと案じている。筆者のいうような選択の自由や手段を残念ながら彼は有していない。(中略)大半の人、おそらく経営層も含めて、まるで罠にかかったかのように「やめられない」「抜けられない」現実のなかで、大半の人たちは立ち尽くしているのだ〉
おそらくこれが、多くの組織、特に知名度も歴史もある優良企業で起きている現実です。しかし、そういったノルマを課している会社にも、上司の方にも、またご本人にも、私はこう問いたいです。
「その数字目標が、人の命、人生にとってどれだけの価値があるのですか」
会社のために人があるのではなく、人と社会の幸福のために会社はあるはずです。上記の読者の知人の方の状況は主従逆転も甚だしく、いますぐ誰かが勇気を持って現状を変える努力をしなければ人の人生を壊すという最悪の結果に繋がります。また、それはその会社の未来をも破壊することになるのです。
本書では、ノルマを「本人の意思から離れ、他者から与えられた、本人が主体的に同意していない業績目標値」と定義しています。数値目標自体がいけないわけではありません。目標が励みになることも多いからです。しかし、半強制的にその数字が与えられている場合、すなわち受け取る本人が「自分ごと」として主体的に向き合えていない場合に、その数字は「ノルマ」です。
「うちの会社は、目標値をしっかり部下と話し合って決めている」と言う方は、部下の方が主体的にその目標を「自分ごと」としてどこまで腹落ちできているか、そこから考えなおしてください。自分ごととは、部下の方ご自身が「それをやる意義がある」「それに挑戦してみたい」「努力すればきっとできる」と感じられることです。実は、そのような実感を持たせることこそが上司として最も大切な仕事です。
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ビジネスシーンにおいて、「目標」と「ノルマ」という2つの単語は、巧みなレトリックですり替えられがちだが、つまるところ、その差は“受け手が納得しているか否か”という点に集約されるということ。望む成果を得るためには、やはり数値目標を与える側と与えられる側との間に、丁寧な意思の疎通が要求されるようだ。
◆『ノルマは逆効果』藤田勝利(2019年2月19日発売/太田出版)
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