CMの名手だった伊丹十三さん たった数十秒で自らの世界観を表現

学び
スポンサーリンク

『お葬式』『タンポポ』『マルサの女』など、数々のヒット映画を残した伊丹十三監督。日本映画界における功績は計り知れない伊丹さんですが、実はCM制作者としても類稀なる才能を発揮した人物でした。

たった数十秒の映像ながらドキュメンタリーやエッセイの雰囲気を感じ取ることができるのが、伊丹さんが出演するCMの特徴でした。それもそのはず、場合によっては企画段階から伊丹さんが関わっていました。

例えば、映画監督だった父・伊丹万作さんの故郷であり、伊丹さんが高校時代を過ごした松山にある老舗製菓会社・一六本舗の銘菓「一六タルト」のCMでは、伊丹さんが伊予弁だけで商品を紹介。これが県内で大ヒットし、老若男女を問わず話題となって、伊丹十三ブームが巻き起こりました。

あまりにも評判が良かったため、毎年のように新作を作り、さらに講演会の依頼も殺到。次第に伊丹さんは松山に来ることが増えていきました。このときの縁がきっかけで、一六本舗が映画『お葬式』の製作資金の一部を出資することになります。

1977年に松下電器の提供で放映されたテレビ映画『ルーツ』(テレビ朝日)のCMでは、日本における冷蔵庫のルーツをドキュメンタリー・ドラマにして紹介。昔の人が、富士山の氷穴からどのように氷を運搬していたのかを見事に再現してみせました。昔の人々の試みは失敗に終わるのですが、そこで伊丹さんが冷蔵庫に肘をついて「これはもうあなた、自分の家に富士山が一個あるのと同じよ」とひと言。このCMは後にACC賞の秀作賞を受賞しました。

さらに注目なのは、宮本信子さんをはじめ、家族総出演となった「味の素マヨネーズ」のCM。ここでは食通として知られた伊丹さんのうんちくがこれでもかと垣間見られます。自らが書いた台詞を、自らが口にする。それはもうエッセイの一人語りに他なりません。話題になることなく消費されていくCMが圧倒的多数を占めるなか、確実に爪痕を残すCMを数多く残した伊丹さん。その才能を表現にするには、たった数十秒あれば十分だったのです。

◆ケトルVOL.47(2019年2月15日発売)

【関連リンク】
ケトルVOL.47-太田出版

【関連記事】
宮本信子が伊丹十三との出会いを回顧「第一印象は”異質”」
伊丹十三さん 映画監督としての素地を作った俳優時代の業績
完璧主義者だった伊丹十三監督 撮影現場で貫かれた尋常ならざるこだわり伝説
椎名誠や重松清も魅了 伊丹十三の機知に富んだエッセイの魅力

※この記事は、「太田出版ケトルニュース」に当時掲載した内容を当サイトに移設したものです。

関連商品
ケトルVOL.47
太田出版