渋谷系を支えた紙の出版物 ファンジンやミニコミが流行を牽引した

カルチャー
スポンサーリンク

90年代のユースカルチャーを牽引した「渋谷系」は一大ムーブメントになりましたが、当時はインターネットがまだ一般的ではなかった時代。渋谷系カルチャーを支えたのは紙の出版物でした。

ただ、それらは必ずしも大手書店で買える商業雑誌だけではありませんでした。それよりも、自主流通でレコード屋などに置かれたインディーマガジンや、一部の専門店でのみ取り扱うファンジン、ミニコミ(まだZINEという呼び名は一般化されていない)、クラブやライブハウスで入手できるフリーペーパーなどが貴重な情報源となりました。

なかでも渋谷系カルチャーを牽引したインディーマガジンとして知られるのは『バァフアウト!』。同誌ファウンダーの山崎二郎さん、現『スペクテイター』編集長の青野利光さん、現フリーランスライター・編集者の北沢夏音さんの3人で1992年に創刊されました。

一時期、編集部は東急ハンズの向かいにあったノア渋谷の501号室内ハンマー・レーベルのスタジオに、瀧見憲司さん率いるインディーレーベル・Crue-Lとともに席を置いていたそうです。ちなみに同じ階には渋谷系を代表するレコードショップ・ZESTもありました(雑誌のスピリットやディテールは、野中モモ×ばるぼら『日本のZINEについて知ってるすべてのこと』(誠文堂新光社)にある北沢夏音さんのインタビューを熟読ください)。

一方、小出亜佐子さん編集のファンジン『英国音楽』も、フリッパーズ・ギターの前身バンド・ロリポップ・ソニックのインタビューや、ソノシートの付録などで有名です。また、1988年に桑原茂一さんによって創刊されたフリーペーパー『Dictionary』も、渋谷系クラブカルチャーの最先端を知る重要なメディア。誌面には藤原ヒロシさんやスチャダラパー、TOWA TEI さんなどの今なお活躍するアーティストが登場。ポケットサイズのコンパクトな作りながらも、到底無料のクオリティとは思えない情報の緻密さが魅力です。

初期『クイック・ジャパン』に「INDIE PAPER」というミニコミの紹介ページまであったほど隆盛を極めた紙のカルチャー。ではなぜ、商業誌ではなく、ZINEだったのでしょうか。それは、渋谷系がカウンター・カルチャー的な性格を帯びていたからではないでしょうか。「メジャーではできない面白いことをやる」という姿勢は、ZINEとの相性がよかったのです。

◆ケトルVOL.48(2019年4月16日発売)

【関連リンク】
ケトルVOL.48

【関連記事】
カバーされ続ける『今夜はブギー・バック』 それぞれの魅力
フリッパーズ・ギターが特別だった理由 「何を選んで、何を選ばないか」
「渋谷系」とは何だったのか? “最後の渋谷系”が当時を語る
渋谷系ファッション トレンドの最先端を行く鍵は「反射神経」だった

※この記事は、「太田出版ケトルニュース」に当時掲載した内容を当サイトに移設したものです。

関連商品
ケトルVOL.48
太田出版