ハリウッドで「失敗する」と言われた『X-MEN』が人気シリーズになった訳

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大ヒットシリーズ『X-MEN』の最新作『X-MEN:ダーク・フェニックス』が6月21日に公開されました。『X-MEN』は今から50年以上前、マーベル・コミックスの編集者だったスタン・リーと、アーティストのジャック・カービーによって誕生した物語。単なる勧善懲悪のエンターテインメントではなく、社会に虐げられる側である“ミュータント”というマイノリティの視点から物語を描くことで、互いの違いを認め合うことの大切さを説き、アメリカンコミックスの世界に新たなヒーロー像を築きました。

ただ、原作が大人気でも、映画がヒットするかどうかはまた別の話です。まだコミックス原作の映画が大ヒットするわけないと思われていた頃、ハリウッドでも「失敗する」と言われていた『X-MEN』は、なぜ現在も続く人気映画シリーズとなることができたのでしょうか?

2017年にアメリカの『バラエティ』誌の企画で俳優のウィリアム・デフォーと対談したヒュー・ジャックマンは、初めてウルヴァリンを演じた『X-MEN』が公開された2000年当時のことを、こう振り返りました。

「最初の『X-MEN』の撮影を終えたあとハリウッドの仲間に、『この映画から良い噂を聞かないぞ。公開前に別の作品の出演を決めておいたほうがいいんじゃないか?』と言われました。それから4カ月後も彼は、『もう次の出演作は決めたか? あの映画が公開されたら、また社会の底辺に落ちるぞ』と言いました。ありがたいことにその予想は間違っていました。とはいえ、当時は誰も成功を予想できなかったでしょう。あの頃にはコミックス映画なんてジャンルはなかったのですから」

よく知られているように、『X-MEN』第一作はオーストラリアで活躍していたヒュー・ジャックマンのハリウッドにおける実質的なデビュー作であり、この成功により彼は一気にスターダムにのし上がります。しかし、それほど重要な作品も、当時は周囲から「キャリアの汚点」になると心配されていたと語っているのです。

実際、これ以前に『スーパーマン』や『バットマン』の映画化がそれぞれ成功を収め、その後の数年間はハリウッドでコミックス原作の映画がいくつも作られたものの、期待されたほどのヒットにはつながらず、いつしかアメコミ映画は一部の好事家に向けたニッチなジャンルの作品と思われるようになっていました。

しかし、それではなぜ大方の予想に反して、『X-MEN』の映画は成功したのか? 映画化を手がけた20世紀フォックスは90年代前半に『X-MEN』のキッズアニメで成功を収めており、実写版でも基本的には同じ路線を踏襲するつもりでした。主に子供たち(と昔からのコミックスのファン)をターゲットに、個性豊かなさまざまなヒーローが登場するSFエンターテインメント作品として企画していたのです。

しかし監督のブライアン・シンガーは、これだけでは何かが足りないと感じていました。「手本などはなかった。コミックス原作の映画は過去のものとなって久しかったし、コンセプトもキッチュな映画といったものしかなかった」と製作段階のことを振り返っています。

◆ヒーロー自身も孤独なマイノリティという原作

そんなとき彼は、マーベル・コミックスの立役者であり、『X̶MEN』の原作者であるスタン・リーと映画化について話し合う機会がありました。そこでスタン・リーは、「自分自身の解釈でキャラクターを掘り下げればいい」とアドバイス。背中を押されたシンガーはスタジオから渡された最初の脚本を退け、イチから新しく書き直すことにしたそうです。

そもそも、スタン・リーが1963年にアーティストのジャック・カービーと共に生み出した『X-MEN』のキャラクターたちは、スーパーマンのように誰からも尊敬されるスーパーヒーローではありません。ミュータントは特別な能力を持っているがゆえに異質な存在として社会から迫害されるマイノリティとして描かれています。

それでも人類との共存の道を探る者たちがプロフェッサーXを中心とするX-MENであり、差別されるならば戦わなければならないと考えるのがマグニートーをはじめとするブラザーフッドという集団です。敵にも敵なりの戦う理由があり、ヒーローも自分たちが本当に正しいのかと悩む。決して単純な勧善懲悪の物語ではないのが『X-MEN』の特徴です。

マイノリティであるミュータントたちが差別を避けるように暮らしているのが、プロフェッサーXの運営する「恵まれし子らの学園」です。その生徒たちは皆、自身の境遇に対する苦悩を抱えています。

自分は社会からのけ者にされており、家庭にも居場所はない。この悩みを理解してくれる人なんて、学園から一歩外に出たらいない。でも、学園のミュータントたちもそれぞれ違う能力を持ち、あの子も、この子も、本当の意味で自分と同じではない。だとしたら、この学園の中でさえ、自分は独りなのかもしれない……。

そんな若きミュータントたちが抱える切ない孤独感は、コミックスの主な読者であるティーンエージャーが強く共感できるものでもありました。そして、ブライアン・シンガーが映画の本当のテーマとして見出したものも、ミュータントたちが抱える“孤独”だったのです。

深いテーマをそなえた物語と実力派の俳優陣の演技により、『X-MEN』の第一作は単なるSF大作でなく、複雑な人間ドラマとしての魅力もそなえた野心的な映画として完成しました。そんなアメコミ映画は当時なかったのです。

◆ケトルVOL.49(2019年6月15日発売)

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※この記事は、「太田出版ケトルニュース」に当時掲載した内容を当サイトに移設したものです。

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