万物評論家・丸屋九兵衛が某DJ、Aマッソ、金属バットの黒人差別を壮絶DIS

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「音楽評論家」というより「万物評論家」という肩書がしっくりくるようになってきた怪人・丸屋九兵衛が恒例のトークイベントを開催した。もともとHipHop、R&Bを中心としたいわゆる「ブラック・ミュージック」の情報を扱うWebサイト「bmr」を主宰する編集者だった丸屋だが、その正体は音楽、歴史、語学、ファンタジー、ミリタリー、SF、BLなど、幅広い興味の対象をハードにディグるオタクであると同時に、それらの知識を関連付けて脳内にインプット〜アウトプットしていく博覧強記の知識人。そんな丸屋の脳内宇宙の一端を垣間見られるのが「Soul Food Assassins」「QB Continued」からなる二部構成の長尺トークライブだ。

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◆『Soul Food Assassins』〜差別ネタが蔓延する日本のお笑い業界の未来は暗い

今回、第一部『Soul Food Assassins』のテーマは、前回に引き続き「アフリカ系日本人への差別」。米プロバスケットボールリーグNBAのワシントン・ウィザーズに入団した八村塁は、先発メンバーとしてデビュー戦を飾り、3試合連続で2ケタ得点を飾るなど、日本人として前人未到のエリアで活躍を続けている。しかしベナン系日本人であり、生まれつき浅黒い肌を持つ八村を差別する残念な日本人も少なくない。八村に対して「外人や〜ん」という心無いツイートして、盛大にネット炎上した関西を代表する某HIPHOP DJもその一人だ。

前回の『Soul Food Assassins』は、この某DJを激しく糾弾する内容となったが、そもそも日本ではアフリカ系への差別が常態化していると言わざるを得ない。最近で言えば、お笑いコンビ・Aマッソの「(アフリカ系日本人の)大坂なおみに必要なものは漂白剤」発言や、同じくお笑いコンビ・金属バットの「猿や黒人とエッチしたらエイズになる」発言は、その典型と言えるだろう。丸屋は「ネタをやっている芸人もさることながら、それを笑っている客が怖い。この国のお笑いの未来は暗い」と、いつになく怒りを込めて語る。

◆『Soul Food Assassins』〜「黒人はセクシーで躍動的だから素晴らしい」という偏見

丸屋は、八村塁を外見から「日本人でない」と決め付けた某DJと、大坂なおみを日本人と認めた上で「我々の肌色になれ」といったAマッソを例に上げ、「どっちも最悪だがベクトルが異なる」と語り、アフリカ系への差別にも様々な形があることを指摘した。その中でも、我々がしっかりと把握しておきたいのが、反差別を自認する人すらも無意識にしていることがある「リスペクト系差別」だ。

丸屋はかつて音楽雑誌「bmr」で編集者として働いていた時代に、とある黒人団体から抗議を受けたことがあるという。黒人音楽を性的に解釈した記事が、当事者から「侮辱的である」と受け取られたからだ。もちろん「bmr」サイドに黒人を貶める意図はなく、むしろ彼らの優れている点を伝えようとしていたことは想像に難くない。

しかし一見褒め言葉のようにも感じられる「黒人はセクシーで躍動的だから素晴らしい」という視点は、非黒人が作り上げたある種の偏見であり、当事者からすれば個人の多様性を軽視した迷惑な「リスペクト系差別」でしかないのだ。「かつてのbmrもまた、そうした考えを持っていたのだから、抗議を受けるのは当然のことだった」と丸屋は振り返る。

その後、丸屋は「リスペクト系差別」を理解するための教材として、アルジェリア独立運動で指導的役割を果たした思想家フランツ・ファノンの『黒い皮膚・白い仮面』(みすず書房)を上げた。ファノンは、第二次大戦前後にカリブ海のフランス領アンティル(西インド)諸島マルチニック島に生まれ、精神科医になった後にフランスに留学し、「植民地出身のインテリ黒人」という自らのアイデンティティと向き合う。

その結果、生まれた名著が『黒い皮膚・白い仮面』だ。精神医学的なアプローチを含む、様々な角度から肌の色や植民地支配が生み出す人間の意識をえぐり出した同書を読んだ丸屋は「自分たちの黒人観が、本人たちにとって迷惑なものであることを思い知った」と語る。

某DJの差別発言をきっかけに企画された2回に渡るアフリカ系日本人への差別について考えるトークのオチは、「彼(某DJ)は差別的だが、それ以前に発言に矛盾点が多い単なるアホ」というものだった。某DJは確信を持って差別を行う悪質なレイシストでない。しかし差別の大半が、差別者がアホであることによって発生しているのも事実だ。そしてアホを解消する第一歩は、自らがアホであることを認めることにほかならない。いま我々は自らを厳しく再点検する時期に来ているのではないだろうか。「もしかしたら自分はアホなのではないか?」と。

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◆『QB Continued』〜DC、マーベル以外にも面白いアメコミは山ほどある

トークライブ後半は、『アヴェンジャーズ』のマーベル・コミック、『ジョーカー』で巻き返し中のDCコミックス以外から出ているオルタナ系アメコミ諸作に注目するという内容となった。

アメコミ界における二大巨塔とも言うべき存在が、マーベルとDCだが、それ以外にも名作を生み出している出版社は数多い。「人とは違ったものを好む」ことをモットーとしている丸屋は、第三勢力に当たるダークホースコミックス(代表作『300』『SIN CITY』『HELLBOY』)、トッド・マクファーレンやジム・リーなどマーベルにいた売れっ子コミック作家が権利を求めて設立したイメージコミックス(代表作『SPAWN』)、ハードコアパンクバンド・ミスフィッツのヴォーカルであるグレン・ダンジグが立ち上げたヴェロティック社(代表作『サタニカ』『デビルマン』『G.O.T.H.』)などを好んでいるという。

とはいえ丸屋もハードコアなアメコミ好きを自認する男である。マ−ベルやDCをスルーしているはずもなく、 しっかりとマイナー作品までチェックしている。マーベル関連作として、盲目の弁護士が悪に立ち向かう『デアデビル』、吸血鬼ハンターが活躍する『ブレイド』、DC関連作としてNBA選手シャキール・オニール主演で映画化もされた『スティール』、小説家ニール・ゲイマン原作でヒューゴー賞・ネビュラ賞に並ぶSF~ファンタジー作品に与えられる三大賞のひとつ世界幻想文学大賞において最優秀短編賞を獲得した『サンドマン』、19世紀末ビクトリア朝に生まれた文学作品のキャラクターが作品の垣根を超えて活躍するアラン・ムーア原作の『ザ・リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』などの作品をフェイバリットとしてあげていたことを付記しておこう。

◆『QB Continued』〜スーパーヒーローという存在への疑問を描いたアメコミ諸作

少し前まではスーパーヒーローもの一色だったアメコミだが、かつては西部劇、ラブストーリー、スリラー、戦記、風刺など多種多様なジャンルが存在していた。しかし1950年代に「コミックコード委員会」と呼ばれる規制団体によって、青少年に有害とされるコミックに対し、公的なプレッシャーがかけられたことで、アメコミのジャンルが淘汰され、ほぼスーパーヒーロー物のみになっていく。

限られたジャンルが深化し、パターン化していくと、そのジャンルへの疑問を描いた作品が登場するのはお約束。日本で言えば、アニメや特撮映画の描写を科学的に検証した柳田理科雄の『空想科学読本』などは、その典型と言えるだろう。

「こうした視点はアメコミの世界でも人気を集めている」と丸屋は語り、スーパーヒーローを目指すダメ人間を描いた作品『ミステリーメン』、1938年(『スーパーマン』が刊行された年)にスーパーヒーローが登場したことで変わった世界の1985年を描いたアラン・ムーア原作の『ウォッチメン』、『ゲーム・オブ・スローンズ』の作者ジョージ・R・R・マーティンとその作家仲間たちによるスーパーリアルなヒーローもの『ワイルドカード』などをおすすめ作品として上げた。

◆QB Continued〜Amazonドラマ『ザ・ボーイズ』は「スーパーヒーローリアリズム」作品の決定版

さらに丸屋はアメコミというジャンルへの疑問をテーマにした作品の決定版として、Amazonがオリジナルドラマ化した『ザ・ボーイズ』を上げる。こちらも『ワイルドカード』と同じく、現実にヒーローが存在したらどうなるかを描いた「スーパーヒーローリアリズム」もの。作中に登場するヒーローたちは超人パワーを持ったことで驕り高ぶり腐敗しているが、同時にヴォートという企業によってマネタイズのために徹底的に管理されている。「個人行動を禁じられているのは、アヴェンジャーズのパロディですよね。ドラマも面白いんですが、原作にはもっとヒーローが出てくるし、小児性愛者のキャラクターがいたりともっと悲惨です」と丸屋は語る。

ご存知の方も多いと思うが、同作はアメリカにおいて、いわゆる支配層から嫌われている。保守派やキリスト教原理主義者はもちろん、軍事産業やセレブへの風刺がふんだんに織り込まれているからだ。今回のトークショーでは、アフリカ系への差別が頻発する日本社会に絶望したのか終始落ち込み気味だった丸屋。しかしラストは気を取り直した様子で「『ザ・ボーイズ』を観ていると、映画も音楽もコミックも武器にして戦うことが出来るものだということを思い出すことが出来ますよね」と会場を訪れたオタクな(?)人々を勇気づけていた。

※この記事は、「太田出版ケトルニュース」に当時掲載した内容を当サイトに移設したものです。