スティーヴン・キング 子供ならではの想像力を言葉に換えて恐怖を演出

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『キャリー』『IT』『シャイニング』など、ホラー小説史上に残る名作を次々と発表してきたスティーヴン・キング。彼の作品では子供たちが主人公になることが度々あります。彼らは想像力がとても豊か。恐怖に対して敏感に反応し、時に物事が悪い方向に進む可能性について思考を巡らせます。

短編集『恐怖の四季』に収められた『スタンド・バイ・ミー』の文中では、主人公の少年ゴードンが、交通事故で亡くなった兄デニーの気配を自宅で感じ取り、無残な姿になって自身の前に現れることを想像して恐怖する様子が事細かに書かれています。

〈わたしは必要がないかぎり、デニーの部屋には入らなかった。ドアのうしろや、ベッドの下や、クロゼットの中に、デニーがいるような気がしてならなかったからだ〉
〈暗がりに青ざめ血だらけになったデニーが、頭の横っちょがぐしゃりとつぶれ、シャツに、灰色の筋の入った血と脳のかたまりが乾いてこびりついたデニーが、立っているところを想像してしまう〉(『スタンド・バイ・ミー』新潮文庫)

とはいえ、こうした妄想は特別なことではありません。誰もいないはずの部屋が気になったり、お風呂でシャワーを浴びている背後に人の気配を感じたりといったことを子供の頃に経験した人は少なくないでしょう。しかし、人は大人になるにつれて恐怖に鈍感になり、そして忘れてしまいます。

ところがキングは、まるで自分事のように子供の視点で恐怖を巧みに書きます。それができるのは、キングが言葉の扱いに長けていることに加えて、3人の子供、今では孫もいることが大きいでしょう。キングは子供たちを通じて自分自身を見つめ、大人になることで忘れてしまった恐怖の感覚を思い出しているのです。この能力はキングに与えられたシャイニング(輝き)でもあります。その輝きが失われていないからこそ、今でも恐怖を題材に小説を書き続けられていると言えるでしょう。

ちなみに、キングの最新長編となる『The Institute(原題)』の主人公は、超能力を持った子供たち。御歳70を超えてもなお、子供たちの物語を描き続けているキング先生にあっぱれです。

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※この記事は、「太田出版ケトルニュース」に当時掲載した内容を当サイトに移設したものです。

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