父親、犬、体重…… スティーヴン・キング作品を生んだ「13の恐怖症」

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ホラー界の巨匠スティーヴン・キングは、人を怖がらせる天才ですが、何を隠そう自分自身がびっくりするほど怖がり。作品のきっかけとなったのは、彼が抱える数々の「恐怖症」です。何をどんな理由で恐れているのでしょうか?

【父親恐怖症】
幼い頃に捨てられた影響か、キング作品に出てくる「父親」は攻撃的。印象的なのは、斧を振り回すアル中、娘への性的虐待など、家族に手をかけ自ら崩壊を招く父親の姿です。ちなみにキングは商業作家としてデビューして以来、父とは一度も連絡を取っていません。
※参照作品 『シャイニング』

【機械恐怖症】
キングは常々「機械が怖い」と公言しています。飛行機に乗るのも苦痛、特に大型トラックに関しては、怪物とまで呼ぶ始末。機械は利便性を高め、よりよい生活を送るための必需品ですが、使い方次第では、我々を破滅に追い込む恐怖の対象として襲いかかってくるのです。
※参照作品 『地獄のデビルトラック』

【犬恐怖症】
大型犬に唸られただけで小説『クージョ』を書いたキング。『ジェラルドのゲーム』にも人の命を脅かす犬が登場、しかし『ニードフル・シングス』では惨い形での最期を迎えます。愛犬に、「Molly、aka the Thing of Evil(※邪悪なもの)」と名付けた時点で、愛情深い重いを持っているのは明白です。
※参照作品 『クージョ』

【狂気恐怖症】
幼少時代、シリアルキラーに夢中だったキングは、善悪の区別がつかない人間こそ恐ろしいと、既に知っていました。狂気に支配された人間は、彼のどの作品にも通底する、アイコンのひとつ。『1922』の主人公のように、堅実そうな人が実は凶暴なのは、この上なく怖くないですか?
※参照作品 『1922』

【不可視恐怖症】
霧で視界が妨げられ、「見えない」という不安から生まれる恐怖。キング作品には霧以外にも、背の高い草むら、とうもろこし畑なども象徴的に登場します。その先に何があるか気になってもご注意を。一歩足を踏み入れたら、二度と生きては出られないかも知れません。
※参照作品 『ミスト』

【信仰恐怖症】
キングは幼い頃からメソジストとして育てられるも、親の持つ信仰心に疑念を抱いていました。彼の作品には信仰深く、扇動するような人たちが数多く登場しますが、キングは深い信仰によって生まれる集団心理がもたらす脅威を、最も恐れていると言えるでしょう。
※参照作品 『キャリー』

【体重増加恐怖症】
今では細身のキングですが、昔は肥満体で、体重はなんと107 kg。『痩せゆく男』は、そんな彼が「痩せないと死ぬよ」と医者から言われたことで誕生した作品。医者の意思で体重を落としたキングですが、もし自分の意思に反して体重が減り続け、それが止まらなくなったら……。
※参照作品 『痩せゆく男』

【ランドリー恐怖症】
かのキング、実は最も恐れるものは「洗濯」。『マングラー』はもちろん、他の作品でも印象的な場面では洗濯のシーンが。貧乏時代のクリーニング屋での就労経験は、「人生最悪の経験」なのだそう。それは現在でもキングの心に刻まれた、最も大きなトラウマなのです。
※参照作品 『マングラー』

【死恐怖症】
祖母を一人で看取ったこと、そして最愛の息子が事故に遭いそうになったことで、死を間近に感じ、恐怖を抱いたキング。身内の死、特に親が子を早くに失う恐ろしさから、『ペット・セメタリー』は生まれています。しかし、ときには死のほうが救いがあることも、忘れずに。
※参照作品 『ペット・セメタリー』

【蜘蛛恐怖症】
周知の通り、キングは道化(クラウン)恐怖症をより広めた人物です。しかし当の本人は「特に子供が親しむものが邪悪な存在になる恐怖」を考えて道化にしただけ。別に怖いわけではありません。彼がこの世で恐れるもの、それは道化のペニーワイズの真の姿……蜘蛛です。
※参照作品 『IT/イット』

【ネズミ恐怖症】
キング作品に頻繁に登場するネズミも、彼が怖いと公言する存在のひとつ。小動物だからと侮るなかれ。群れをなして襲えば、人間なんてどうってことない、とでも言うように。最も怖いのは、我々がそんなやつらと、寝床を共有しているかもしれない、ということです。
※参照作品 『地下室の悪夢』

【閉所恐怖症】
監禁され、閉所空間で小説を書かされる作家・ポールの恐怖。狭いトレーラーハウスで暮らしながら執筆をしていたキングはそれを熟知しています。『ミザリー』の恐ろしさはアニーの暴力や恐喝だけでなく、映画全体が閉鎖的な雰囲気を帯びているところです。
※参照作品 『ミザリー』

【核恐怖症】
キングは政治的なメッセージを入れ込むことでも有名。『トミーノッカーズ』は原子力発電所の事故に対して書かれた作品で、『スタンド』では核を用いて悪魔が善人を抹消しようとする脅威が描かれています。それらは現実世界への危惧であり、社会と接続した小説なのです。
※参照作品 『スタンド』

「怖がり」だからこそ、人が恐れるものを見つけられるということ。怖がりのアナタなら、スティーヴン・キングになれるかも?

◆ケトルVOL.52(2020年2月16日発売)

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※この記事は、「太田出版ケトルニュース」に当時掲載した内容を当サイトに移設したものです。

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