【#わたしの大好き】お酒を飲む旅に、また出るために

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雑誌『ケトル』は、6月号として「みんなの大好き」特集を制作中。みんなの大好きをつくる方々と、各々が好きなものに焦点を当てた内容になります。そして現在、note公式アカウントでは、特集「みんなの大好き」にちなんで「#わたしの大好き」をテーマに1000〜1500字のコラム・エッセイを募集中。新型コロナウイルスによって、人と人だけではなく様々なものと距離を取らざるを得ない日々が続きますが、「いまは触れらないが、収束後は……」「外では難しいが、今は家の中で楽しんでいる」「あらためて自分にとって大切なものだと気づいた」など、大好きなものや、愛が深まったものへの想いを寄稿いただいてます。今回はその中から、お酒を飲むたびに。さんの原稿を紹介させてください。

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2019年11月の昼下がり。予定を合わせて一週間の休暇をとった私たちは、沖縄の牧志市場の近くをふらついていた。牧志市場は建て替えのため仮設市場へ移転していて、豊洲市場のようにピカピカになってしまうのかと思うと寂しい気持ちになる。

私たちが沖縄までやってきたのは、美味しいお酒を飲むためだ。路地に入ると、カウンターがせり出した屋台のようなお店を発見。空席に誘われるように二人で並んで座り、暖ボール(泡盛「暖流」で作るハイボール)を頼む。メニューを見ると、島らっきょの塩漬けや、豚足唐揚げなど、東京ではお目にかからないお品書きに、一刻も早く食べたい気持ちと決められない気持ちに悩みながら、なんとか選んだ。運ばれてきたおつまみを大切に頂きながら、お酒をぐいぐい流し込む。

私たちはずいぶん楽しそうに呑んでいたようで、隣に座っていたお姉さんが話しかけてきてくれた。お姉さんは茨城出身で、沖縄に移住して4年目になるそうだ。会話が弾み、すでに3杯目のグラスを傾けていたけれど、折角の沖縄の夜である。ハシゴ酒をするべくお店を出ようとすると、お姉さんが絶対に食べて欲しいというピザ屋を教えてくれた。沖縄でピザを食べる発想がなかったから迷いつつも、なかなか予約が取れないお店ということで、とりあえず電話をしてみた。2席空いているという。これはもう行くしかない、そういう運命だ!という気持ちになって、お姉さんにお礼を告げてピザ屋へ向かった。

予約の時間まで少しあるので、腹ごなしに歩いて向かう。観光客が賑わう国際通りをすり抜け、着いたのは黄色いネオンが光るピザ屋。おしゃれ!後で調べると、オーナーは中目黒のSAVOY(現・聖林館)というピザ屋で修業を積んだ方らしい。なるほど、東京の風を感じる。

ピザのメニューは潔くマルゲリータとマリナーラの2種類のみ。そういえばあのお姉さん、「結局、両方食べちゃうのよねぇ。あとね、ピザを焼いているお兄さんがハンサムなの」と言っていたな。

2軒目ということで、お腹の空き具合はぼちぼち。ひとまず、マリナーラとビールを頼む。厨房がよく見えるので眺めていると、お兄さんが手際よく生地を伸ばし、素早く窯へ運ぶ。焼きあがると、これまた素早く運んできてくれる。一連の流れが見事過ぎて、見惚れてしまった。

あつあつのピザに火傷しそうになりながら、1切れ口に運ぶ。生地はとても薄く軽やか。トマトソースとハーブとニンニクがガツンと口の中に広がる。想像をはるかに超える美味しいピザで、私たちは目を見合わせた。「お、美味しすぎるね…」なんて言いながら、もう1切れをと手が伸びる。

3切れ目に手を伸ばしながら、「これはもう一枚食べたい」と二人して口に出していた。というわけで、マルゲリータとビールをお代わりし、ペロリと2枚平らげた。東京にも美味しいお店は一杯あるけれど、こんなにピザを美味しいと思ったことはない。思い出したら、また食べたくなってしまった。

食いしん坊なので、旅先での食事のことは綿密に計画を練っていく。でも、行く先々でお酒を介して出会う人から教えてもらう情報が、一番の醍醐味だ。

この状況が明けたら、めいっぱいお腹をすかせて、行ったことのない所へ出かけるんだ。そして、想像していなかったハプニングを五感で味わって、ワクワクしたい。美味しいお酒を飲むために、今は楽しい出会いを想像しながら旅の計画を練っておこう。

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いただいた言葉の一つ一つが、また誰かの文化との出会いになれば幸いです。お好きなものについてぜひご寄稿ください。宜しくお願い申し上げます。

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コラム/エッセイと同テーマ「#わたしの大好き」でTwitterでも想いをつぶやいていただけると嬉しいです。#わたしの大好き とともにTwitterでつぶやかれた言葉を誌面に載せさせていただければと存じます。

※この記事は、「太田出版ケトルニュース」に当時掲載した内容を当サイトに移設したものです。