ワンテーママガジン『ケトル』が、8月17日発売の「Vol.55」で取り上げたテーマは「はじめての本」。目まぐるしく変わる世界の中で、焦らず落ち着いて立ち止まり考えたいとき、本はきっと真摯に向き合ってくれるはず──ということで、本の面白さにあらゆる角度から迫っています。
本との出会いは数あれど、成長の中で巡り会うのが国語の教科書。本格的な物語が登場する小学2年生くらいの教科書が「はじめての本」になった人もいるかもしれません。ましてやみんなで同じ物語を読み、それぞれの目から異なった感想を共有するという体験は、ほとんどの人にとって、はじめてだったはず。それは間違いなく読書の醍醐味のひとつであり、だからこそ、未だにあの時の物語が懐かしく思い出されるのでしょう。
そんな忘れ得ぬ数多くの物語を教えてくれた教科書ですが、自治体によって種類が違うことはよく知られた話。小学国語の教科書を発行している出版社は4社あるので、少し街を離れただけで話が全然通じない……なんてこともあり得ます。では小学2年生の自分は、どの教科書を使っていたのでしょうか? 脈々と受け継がれる名作から逆引きでチェックしてみましょう。
■『スイミー』レオ・レオニ 作・絵/谷川俊太郎 訳(光村図書出版)
シェア6割以上を占めるのが、光村図書出版の『こくご』。学年ごとにつけられた「赤とんぼ」「ふきのとう」「わかば」「銀河」などのサブタイトルが今となっては郷愁を誘います。収録作品は、1匹の黒い魚が個性を生かして仲間を守る『スイミー』のほか、馬頭琴の由来となった物語『スーホの白い馬』などメジャータイトルが目白押し。今もなお、世代を超えて読み継がれています。
ちなみに、老夫婦の「垢」から生まれた子供(垢太郎)が鬼退治をする『力太郎』も一時収録(1992~2000年)。そのセンセーショナルな生誕が妙に心に残っている世代の人もいるのではないでしょうか。
■『にゃーご』宮西達也 作・絵(東京書籍)
東京書籍の『新しい国語』は、特に宮城県と高知県でのシェアは圧倒的。そんな同書に20年以上収録されているのが『にゃーご』です。ネズミを食べようと企てていた猫と、何も知らない純粋な子ネズミたちとのチグハグなやりとりが面白く、最後は心が温まる名作です。この物語から、余計な先入観を持たずに相手と接することの大切さを学んだ人も多いはず。
また、物語以外だと「たんぽぽ」がおなじみです。そして、たんぽぽの生態を説明する文章は実は光村図書出版も収録。全国の小学生が自然とたんぽぽの知識を身につけている理由は、国語の教科書なのかもしれません。
■『きつねのおきゃくさま』 あまんきみこ 作/二俣英五郎 絵(教育出版)
北海道で定番と言えば教育出版の『ひろがることば』。説明文章の例として「さけが大きくなるまで」が選ばれているところに、どことなく地域性を感じますが、他県の大都市でも使用され、読者数も侮れません。
そんな読者にはおなじみの作品『きつねのおきゃくさま』は、本来なら天敵であるべき狐が無垢なひよこやうさぎたちに頼られ、次第に心変わりしていくという物語。エサとして捕らえたはずの仲間のために、狐がオオカミと命を懸けて戦うラストが胸に刺さります。ほかにはレオ・レオニ作品から、『アレクサンダとぜんまいねずみ』も長年収録されています。
■『ぼくのだ! わたしのよ!』 レオ・レオニ 作・絵/谷川俊太郎 訳(学校図書)
学校図書の『みんなと学ぶ小学校こくご』は、全国でも静岡県とごく一部の自治体でのみ使用され、出会うのはかなりのレアケースと言えます。ただ、同書で学んだ人は『ぼくのだ!わたしのよ!』と聞けばピンと来るのではないでしょうか。
どんなものでも自分の所有物だと譲らない3匹のカエルが、嵐に流されまいとひとつの石にしがみついたことで、助け合いや共感の大切さに気がつく姿と優しい絵が印象的な同作。残念ながら現在は未収録ですが、その一方で近年は、『スイミー』『きつねのおきゃくさま』など他の教科書でも評価の高い物語を次々と新収録中です。
◆ケトルVOL.55(2020年8月17日発売)
【関連リンク】
・ケトル VOL.55-太田出版
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