2017年に放送されて大きな話題になった『あなたのことはそれほど』の他、『G線上のあなたと私』(2019年)、『いとしのニーナ』(2020年)など、作品が立て続けにドラマ化されているいくえみ綾さん。彼女の作品には、素敵な笑顔を見せる人物が登場するのも1つの特徴です。
例えば『太陽が見ている(かもしれないから)』で、岬が楡とのシェアハウスを解消するシーン。影のある笑顔から「岬、無理して笑ってる?」というように感じた人もいるのでは? 人間の表情を分析するプロであり『微表情を見抜く技術』(飛鳥新社)などを手がける清水建二さんは、表情に焦点が当たるシーンの「目の描写」に注目します。
「岬は目を細めることで黒目を強調させていますが、現実世界で黒目が大きくなるのは、何らかの感情が渦巻いているサイン。しかし他に表情の動きが伴わないと、どんな感情かはわかりません。『明確な感情は隠しているが感情的である』ことが、黒目で強調されているように思います。
また『おやすみカラスまた来てね。』の冒頭で、恋人が主人公に別れを告げるシーンがありますね。彼女も黒目がちに描かれていますが、『私がどう考えているかは自分で考えてね?』というサインにも表情学的には読み取れます。相手が何かしら負の感情を抱いているのだけはわかる、という状態です」
一方で清水さんは、いくえみ作品のキャラクターが本気で怒る時の「作り笑い」についても推察します。
「『プリンシパル』で弦と和央と糸真が遊んでいることを知った晴歌が『なんで?』と笑顔で返すシーンですが、彼女は口元だけで笑顔を作り、目尻を動かしていないように見えます。このような場合、現実の世界では、感情の抑制を示していると私は判断します。『今キレそうだけど、それを隠してあげています』というサインが隠れていると見るわけですね」
実際に登場人物が何を考えているのかは、その人物のみぞ知るところ。しかし、もし作中で「この人は一体何を考えている?」と気になることがあれば、役立ててみてはいかがでしょう。
◆ケトルVOL.57(2020年12月15日発売)
【関連リンク】
・ケトル VOL.57-太田出版
【関連記事】
・「いくえみ男子」のそっくりさんは誰? その変遷をたどる
・「ガンダム」は6畳のアパートから生まれた 誕生を担った真夏の企画会議
・『おそ松さん』プロデューサーが明かす「双子のAI」が登場したワケ
・歴代のプレイステーション 貫かれた「直感的にわかる」という思想