アーティストに必要なのは感受性の強さ。同じ道を歩む先輩に学ぶのはもちろんのこと、他ジャンルの創作物からもアイディアを吸収し、それを自分の作品に昇華する能力が求められます。
繊細な作風と丁寧な心理描写で知られる漫画家のいくえみ綾さんの作品は、ミュージシャンにも多くの影響を与えているよう。4人組バンド「きのこ帝国」のギター&ボーカルで、作詞作曲を担当する佐藤千亜妃さんは、いくえみさんの『太陽が見ている(かもしれないから)』が大好きで、自らの創作にも大きな影響があったそうです。
「何が好きかと聞かれたら、登場人物がすごく好きなんですよね。読んでいて、ずっと心臓がギュッと痛い感覚があるところがとても切なくて好き。唯一無二の存在として互いを照らし合えることの、かけがえのなさ。生きていくための光。男女の物語ではありますが、恋愛という一言だけではくくることのできない作品だと思います。
スモーキーな雰囲気だったり、キラリと瞬く瞬間だったり、何かフィルターを通して世界を見ているような景色だったり。自分が作詞をする上で、意識していなくても、近い感覚を持って表現しているんじゃないかなと思うことがあります。大変恐れ多いですが、日常の延長線上にある一雫の儚さみたいなものが、毎日のように作曲や作詞と奮闘するなかでのスパイスやヒントになっています」(佐藤さん)
チャットモンチーのギター&ボーカル・橋本絵莉子さんの大好きな作品は『プリンシパル』。バンド活動に全力を注ぎ込んでいるタイミングで発表された作品は、今でも「繰り返し読み続けている」そうで、佐藤さんと同様、創作活動の大きなヒントになったそうです。
「全体的に感じる柔軟な感覚や、口ではなんとも説明ができない、いくえみさんの漫画ならではの場面は、いつも見習いたいと思っています。曲作りをしている時に、こうしたら聴いた人は意味わからんかな、こうした方がいいかなとよく考えてしまうのですが、そうではなく、やりたいと思ったことを最大限に表現することが、魅力に繋がるんだということに気づかせてもらっています。それを見事に表現されているいくえみさんのように、私も柔軟に曲作りができるようになりたいです」
いくえみさんの作品に魅了されたのは女性だけではありません。氣志團の綾小路翔さんも、熱心ないくえみファンの1人。『POPS』が大好きだという綾小路さんは、「何も出来ない非力で無力な中坊の自分が、どうにも出来ないもどかしい想いと、高校生という存在への憧れを重ねて読んでいた」そうで、特に大切な作品だそうです。
「作品の中で描かれ続ける、『どこにでもある当たり前の物語。だけど永遠ではない。あの頃の僕らの日々のなかに確かに存在した、かけがえのない刹那を忘れずにいること』の大切さをいつも教えていただいています。
いくえみ先生は、いつの時代でも新しく、少女漫画界の最先端にいるにもかかわらず、ご自身の漫画の世界観は一貫しておられます。硬派なのに柔軟。常に誰にも出来ないことをやり遂げていらっしゃいます。それが昔も今も、自分が先生に憧れ続けている理由だと思っています」(綾小路さん)
このようにして、ある作品がまた別の作品を生む連鎖が創作という作業の醍醐味。コロナ禍でエンタメ界は危機に瀕していますが、受け取る側が柔軟に色々な作品を楽しんでいくことが、最大のサポートになりそうです。
◆ケトルVOL.57(2020年12月15日発売)
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・ケトル VOL.57-太田出版
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