仕事や恋愛、二次元の推しに対する強すぎる想いなど、現代を生きる人々のお悩みはさまざまです。『カレー沢薫のワクワク人生相談』では、漫画家でコラムニストのカレー沢薫が皆様のお悩みに低めの視点からアドバイス。ここでは、本書で人気だったQ&Aを一部ご紹介します。「できればムカつかずに生きたい!」アナタへ贈る、カレー沢薫流令和の歩き方講座。
マウンティング上司の対策法を教えてください!
Q.とても面倒な上司(女性33歳)がいます。何かにつけて他人にマウンティングしまくり「わたしが一番デキる女だと自負してるから」とマジで言います。こいつをなんとかぎゃふんと言わせたいので、良い策をお願いいたします。当方既婚、上司は独身くらいしかプラス点はありません。
A.そもそもマウンティングという行為自体が「こいつをぎゃふんと言わせたい」という動機からなされていることが多いため、あなたもすでにマウンティングゴリラ山(マウンテンとかけています)に入山しかけています。
仮に、仕事がデキる上司に「でも私は結婚してるし」と反撃したとしたら、それは「旦那が年収2兆で」という自慢に「息子がIQ2兆なの」とマウンティングしているのと同じな上、「カレーが好き」というツイートに対し「でも私はウンコが好きです」と返すが如きクソリプになってしまいます。即刻その山を下りましょう。
そういう優等生的回答を求めているのではなく、その山にガンガンに登って、今頂上に居座っているボスゴリラ女上司の代わりにその座につきてえという「マウンティングで勝ちたい」という相談ならせめて「良いマウンティング」を心がけましょう。
マウンティングは「相手に対し優位をとる」という行為ですが、その対処方法は2つあり「自分が相手のさらに上を行く」と「相手を自分の下に引きずり下ろす」です。
前者は、仕事がすごくデキる有能な女に対し臆するどころか、オラ、わくわくすっぞと、戦いを挑み勝とうとする人間です。それも、悟空が戦闘能力じゃ勝てないからTOEICで勝負しようと言わないように、このタイプは相手と同じフィールドで戦いを挑みます。
競技だって、同じルールのもと相手より点を取ったり、いいタイムを出したりするのが目的なのですから、このマウンティングはもはやスポーツとして次期五輪に入れても良いぐらい、爽やかで良いものと言えます。
逆に後者は、デキる女を見るや否や指を見ます。もちろん、指毛が生えてないか確認するためです。
このように、相手の落ち度や欠点を探し、無理やり自分の下に持ってこようとするのが悪いマウンティングです。もちろん自分は1ミリも向上しません。
よって「仕事がデキる女」としてマウンティングしてくる女上司にマウンティングで正しく勝利しようと思ったら「仕事で勝つ」以外ありません。
それ以外で攻撃すると「野球じゃ勝てないから、バットで25人(監督、控え含む)殴り殺した」という地獄甲子園でしかなく、あなたの顔も「作画 漫☆画太郎」になります。
しかし、誰もがそんなスポーツマンシップに則った、オリンピック精神を持てるわけではなく、能力にも限界があり、そう簡単に仕事で勝てるわけありません。
そして、そういう勝てない相手を見れば足を引っ張りたくなるし、「おいしいカレーを作りました」に対し「でも私はでかいウンコ出したし」と返すような、自分が勝てる部分で辻斬りをしてしまいたくなります。
私もツイッターで同業者の「アニメ化」とか景気のいいツイートを見ると、本人に言うわけではありませんが、「私だって息してるし」みたいな対抗自慢エアリプをしたくなります。
そんな時はこう思うようにしています「俺が息してて偉い、ということは俺が知っていれば良い」と。
誰かに息していることを誇示して、他人に「息してるね」と認められなければ、息していないことになるのかというと、そんなことはありません。
むしろ、いちいち相手に確認を取るというのは「自信がない」時にする行動です。
「このみかん色の球体、俺はみかんだと踏んでいるが、イマイチ確証が持てない」という時に「これみかんだよな? これみかんだよな!?」と他人に聞くのです。
よって女上司は、本当は自分がデキる女だという自信を持てないから、他人を捕まえて「あたし出来る女よね!」と確認しているのです。みかんどころか自分を見失っています。
だからあなたが、女上司より優位な点を見つけても「この点は私の方が上だ」と自分でわかっていれば良いのです。それを女上司や周囲にわからせてやろうとすると、みかんがゲシュタルト崩壊した人になってしまいます。
またそのような方法で、女上司をぎゃふんと言わせても、その女上司かまた別の誰かが「あなたをぎゃふんと言わせたい」と思うようになります。
マウントを取ったら、誰かが取り返そうとする。それがマウンティングの世界であり、一度入ったら死ぬまで殴りあうのがマウンティングゴリラ山の掟です。
そして最後に残るのは、疲弊です。多くのゴリラが達成感ではなく「疲れた」と言って山を去ります。
女上司は、今まさにその山で殴りあい、消耗している状態です。
そんな山にわざわざ行くのではなく、遠くから「なんか大変そうだな」と思っていれば良いのではないでしょうか。
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筆者について
かれーざわ・かおる 1982年生まれ。漫画家、コラムニスト。2009年に『クレムリン』(講談社)でデビュー。自身2作目となる『アンモラル・カスタマイズZ』は第17回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品になぜか選出され、担当編集ならびに読者が騒然となった。主な漫画作品に『猫工船』(小学館)、『ひとりでしにたい 1』(講談社)、『きみにかわれるまえに』(日本文芸社)、エッセイ作品に『ブスの本懐』『ブスのたしなみ』(ともに小社)、『負ける技術』『もっと負ける技術』『非リア王』(ともに講談社文庫)、『クズより怖いものはない』(大和書房)、『ひきこもりグルメ紀行』(ちくま文庫)などがある。