あの頃のお笑い/自意識とコメディの日々①

カルチャー
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「第3のバナナマン」「第4の東京03」などの異名をとる放送作家オークラ。2021年12月3日に初となる単著『自意識とコメディの日々』を刊行し、お笑いを志した一人の若者の自伝として、90年代後半からの東京お笑いシーンが語られた重要な一冊として、発売前から重版が決定するなど話題となっている。今回は本書から抜粋した内容を掲載。著者がお笑いを志した当時の空気、まだ無名だったバカリズム、バナナマン、ザキヤマのお話など全5回。

みんなお笑い自意識過剰だった

1990年代初頭、物心ついた時からドリフ、BIG3、とんねるず、ウッチャンナンチャンなどとテレビから流れるお笑い番組を当たり前のように見て育った第2次ベビーブーム世代の若者たちは、1人のカリスマによってある啓蒙を受けた。

「全エンターテインメントの頂点に立つのがお笑いで、面白くないヤツはセンスがない。面白ければ大抵のことは許される」

このお笑い至上主義な考え方は、勉強やスポーツができなくても、楽器が弾けなくても、容姿がイマイチでもいい。だって俺は面白いからと自信を与えてくれた。そのカリスマとは言わずと知れたダウンタウン松本人志さんで、彼に触発された若者たちがこぞってお笑いの世界を目指した。

松本さんの啓蒙はそれだけではない。僕自身も含めて多くの若者に影響を与えたのが「お笑いを目指すもの」=「クラスの人気者、ひょうきんな人」という世間一般の考え方に対して「クラスの人気者が一番面白いわけではない。本当に面白い人間はそういうヤツを見てニヤニヤしているヤツだ!」という価値観を提示してくれたことだ。

松本さんの言葉(そんなことを本当に言ったかどうかはもう忘れてしまったが少なくとも自分はそう受け取っていた)は、クラスの人気者ではないが「自分には何かがある」と思っていた承認欲求の強い若者たちの心に火をつけた。

これによって有象無象の若者が芸人を目指すわけだが、世の中はそれほど甘くない。ほとんどの若者は“自分の何か”を見つけることができずにその炎を消すことになる。

1993年、僕が大学1年の頃は「自分が一番面白い」とギラギラしているお笑い自意識過剰男子がウヨウヨ生息していたし、もちろん僕もそんな1人だった。

合コンと言えば女子を口説く場である。しかし、大学時代の僕は「それよりもそこに集まった男子の中で一番面白い人間だ」と主張することがなによりも大事だった(単にモテないからその方向へ走ったのかもしれないが、そのへんの思い出は多少美化して進めます)。

人間の脳とは都合のいいもので、実際、ウケたかどうかは別としてウケた記憶しか残ってないのでウケていたということにしている。ただ、ウケなかったとしても、お笑い自意識過剰男子には「俺の笑いがわからないのは相手がバカだからしょうがない」という最終自己防衛手段があったから、なおさらスベっていたなどとは微塵も思っていなかった。

関西出身の脅威

そんな自称天才はある日の合コンで惨敗を喫する。ある男が発したたったひと言に、そこにいた全員が爆笑していた。そのひと言とは……「なんでやねん!」である。

当時は空前のダウンタウンブーム。関西出身でもない若者たちが自分の母を「おかん」と呼びはじめた時代。関西出身のその男、N君(実際は三重出身)が女子たちが言った他愛もないひと言に対して本場の「なんでやねん!」(実際は三重出身)を炸裂させたのだ。その瞬間にそこにいた関東圏の女子たちは狂喜乱舞した。

「面白い~!」

ただの「なんでやねん」である。が当時はその言葉が「おもしろのアイコン」として確立していた。僕自身「ただツッコんだだけじゃん。それだけで何が面白いの?」と思いつつも、テレビでしか見たことがなかった「生なんでやん」にそこそこ興奮した。特に好きでもない芸能人を見かけた時くらいの興奮だ。

とはいえそこは合コンという名の笑いの戦場。負けるわけにはいかない。気持ちを奮い立たせ、なんとか取り返そうとこっちも頑張ったが、その合コンは終始N君のペースだった。「こんな合コンやる気ないわぁ」と言いながら用意していたハチマキを頭に巻いたり、「俺は東京に来る時に、親と約束したことが3つあるんや。借金はするな、ギャンブルはするな、早く童貞は捨てろ」などなど、今でもN君の言っていたことは覚えている。今、考えるとベタなフリとオチの話なのだが、当時の僕はただ漠然と変なことを言って、笑いの構造みたいなものをまったく考えてなかった。N君はスムーズな関西弁で女子たちをツッコみ、「やる気がない」という前フリからハチマキを締めたり、親との3つの約束という三段オチをかます。そんな基本的なことにしびれまくると同時に悔しさを噛みしめていた。その合コンの最中、僕がトイレで1人落ち込んでいると、後からN君が入ってきて僕を見てこう言った。

「君、俺が東京で見たヤツの中で一番おもろかった」

うれしかった。その時、自分がN君に対抗するために何をしゃべったかは覚えていない。しかし、自分なりに必死に食らいついた努力はN君の心に届いていたのだ。

結果、僕とN君は女子たちと連絡先を交換することもできずに、その合コンの幕は閉じた。しかし、僕の心は満足していた。なぜなら本場関西(実際は三重出身)の人間に認められたからだ。

それ以来、僕とN君は友達になり、大学で会えばお笑いの話、互いの家に行ってはお笑いのビデオを見たりするようになった。
 
余談だが、お笑いのビデオといえばまだ作品がほとんどなく、インターネットも普及していない時代(当時のレンタルビデオショップに置いてあるお笑い作品と言えばダウンタウンの漫才を収録した『ダウンタウンの流』、ウッチャンナンチャンを中心としたフジテレビのコント特番『笑いの殿堂』、あとはイッセー尾形の一人芝居くらいだった)なので、お笑い好きにとってテレビのお笑い番組がすべてだった。

今でも覚えているのが当時、付き合えるかどうか? くらいの女の子と遊園地デートをしている時、ふとあることに気づく。

「ヤバい! 今夜『ダウンタウンのごっつええ感じ』に志村けんが出演するのビデオに録ってくるの忘れた!」 

今ほど芸人同士が同じ番組で共演するのが当たり前ではない時代、イケイケのダウンタウンと志村さんの初絡みなんてお笑い好きからしたら、何を差し置いても見なければいけないオンエアである。HDDで勝手に録画してくれる今とは違い、見たい番組はビデオテープをセットしてタイマー予約しなければならない。「毎週“ごっつ”を予約していたのに、なんでこの日に限って予約を忘れたのか?」と自分を恨んだ。実家に電話して録画を頼もうとするも留守。まだ携帯電話もそれほど普及していないため、外出したら家族に連絡を取ることはできない。絶対絶命のピンチ。僕は意を決し、その女の子にお願いをした。

「今から俺の部屋へ来ない?」

「今から?」

「うん」

「……急じゃない?」

ごもっともだ。男が女を家に誘うのに重要なのはタイミングだ。普通夕食後とかそういう時だ。遊園地で遊んでいる途中に言うことではない。しかし、ダウンタウン×志村けんという夢の共演を見逃すなんて、お笑い好きとしてそれ以上にありえない。

「どうしても今夜の“ごっつ”を見たいから、今から俺の部屋へ来ない?」

「……はぁ?」

ごもっともだ。男が女を家に誘う理由はほぼ下心だ。みんなそれを隠してあの手この手でそれっぽい理由を考えてスマートに誘う。こんな下手くそな誘い方はない。しかし、こっちは下心なんてまったくなく、純粋に“ごっつ”が見たいという思いしかなかった。

結果、彼女は僕の家に来てくれた。ピュアな気持ちが彼女に通じたのか? あまりの強引な誘いに根負けしたのか? わからないがとにかく彼女は僕の家に来てくれた。2人してダウンタウンと志村けんの夢の初共演(10分もなかったが)を見た後、僕は隣に座る彼女を見て、下心を取り戻した。その後、僕たちは付き合うことになった。初めての彼女だった。

* * *

本書では、今回ご紹介したエピソードの他にも、東京03、おぎやはぎ、ラーメンズなどの新たな才能たちとの出会いや、放送作家としてさまざまな作品を世に出すようになるまでのエピソードなど、オークラにしか語れないストーリーが満載! 全てのお笑い好きに贈る、オークラ初のお笑い自伝『自意識とコメディの日々』は現在大好評発売中!

筆者について

オークラ

1973年生まれ。群馬県出身。脚本家、放送作家。バナナマン、東京の単独公演に初期から現在まで関わり続ける。主な担当番組は『ゴッドタン』『バナナサンド』『バナナマンのバナナムーン』など多数。近年は日曜劇場『ドラゴン桜2』の脚本のほか、乃木坂のカップスターCMの脚本監督など仕事が多岐に広がっている。

  1. あの頃のお笑い/自意識とコメディの日々①
  2. 初舞台/自意識とコメディの日々②
  3. バカリズム/自意識とコメディの日々③
  4. バナナマン/自意識とコメディの日々④
  5. ザキヤマ/自意識とコメディの日々⑤
『自意識とコメディの日々』試し読み記事
  1. あの頃のお笑い/自意識とコメディの日々①
  2. 初舞台/自意識とコメディの日々②
  3. バカリズム/自意識とコメディの日々③
  4. バナナマン/自意識とコメディの日々④
  5. ザキヤマ/自意識とコメディの日々⑤
  6. 『自意識とコメディの日々』記事一覧
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