『電池以下 吉田豪 編』発売記念!TAJIRI×吉田豪×掟ポルシェ「紙プロ・中牧・IWA…」注釈ナシのプロレストーク

試し読み
スポンサーリンク

プロインタビュアー・吉田豪と「ロマンポルシェ。」の説教担当・掟ポルシェによる雑誌『CONTINUE』の最長不倒連載が、ふたりによる初の共著『電池以下 吉田豪 編』として11月29日に太田出版より発売された。
各界の著名人の知られざるエピソードが満載の本書から、日本のみならず、世界でも活躍するプロレスラー・TAJIRIさんを迎えた回の一部を特別に公開!
プロレス大好き世代の吉田豪と掟ポルシェ。同世代で、尚且つ現役で活躍中のプロレスラー・TAJIRIを交え、話題はどんどんディープな方向へ……?

TAJIRI
1970年生まれ。1994年、IWAジャパンでプロレスラーとしてデビュー。大日本プロレスを経てメキシコへ渡ったのち、米国のECWでトップ選手として絶大な人気を獲得。2001年にWWEに入団し、WWEクルーザー級王座、WWE世界タッグ王座を戴冠。5年間に渡り活躍した。帰国後はハッスルでの活動を経てSMASH、WNCで選手兼プロデューサーとして団体を率いる。現在は国内・海外のさまざまなリングで活躍している。鍼灸師としても活動中。著書に『戦争とプロレス プロレス深夜特急「それぞれの闘いの場所で」・編』(徳間書店)等がある。

掟ポルシェ不在ではじまる、吉田&TAJIRIの『紙プロ』トーク

吉田 TAJIRIさんとボクは同じ1970年9月生まれだからなのか、趣味もかなり近いんですよ。プロレス、空手、梶原一騎って感じで。

TAJIRI そうなんですよ。だから今日は吉田さんの『空手★バカ一代』ってインタビュー本を持ってこようと思ったんですけど、風呂のなかでずっと読んでてボロボロになっちゃったんで、それは失礼かなと思いまして。

吉田 いや、ぜんぜん問題ないです! こちらとしてもTAJIRIさんの本(『プロレスラーは観客に何を見せているのか』)が非常におもしろかったので、一度ちゃんとお話がしたいと思いまして。あんなに山口日昇(『紙のプロレス』の編集長としては吉田豪の上司であり、ハッスルのプロデューサーとしてはTAJIRIの上司)という男が絶賛されている本もちょっと珍しいと思ったんですけど、何がそんな素晴しかったんですか?

吉田豪

TAJIRI この前、安生(洋二)さんと坂田(亘)さんと『KAMINOGE』の対談で会ったんですけど、結局誰も悪口を言わないんですよね。みんな、いまだに好きっていう。

吉田 どうしようもない人間なんだけど、「まあしょうがない」みたいな感じになる。そこは人徳な部分もありますよね。『紙プロ』時代から日常的に失踪したりで、ボクも相当ひどい目に遭ってるはずなんですけど、「ま、しょうがない」になりやすい(笑)。そんな人間でも、プロデューサー的な能力には長けてた部分はあったんですか?

TAJIRI そうじゃないですか。だけど山口さん自身がそんなにすごいことを考えるんじゃなくて、これおもしろいっていうのを探してくっつけるのが得意だったような感じで。

吉田 なんとなくわかります。『紙プロ』時代も誰かの本を読んで影響を受けて、そのフレーズを多用するようになったりとか。本人が何か画期的なことをするわけではなくて。

TAJIRI 山口さんの実力以上に、この人すごいって見せる能力がすごかったし、そう思わせるための言葉のチョイスがうまかった気がします。「ハレーションを起こす」とか自分のなかで流行りの言葉を急に使いだして。そういうのもかわいいんですよね(笑)。

吉田 底が丸見えの可愛さ(笑)。

TAJIRI 吉田さんは『紙プロ』にずっといらっしゃったんですか? 『紙プロ』の記者の方たちとは雰囲気が違うと思うんですよ。

吉田 どういうことですか?

TAJIRI 『紙プロ』の人たちって、いかにも怪しい人オーラがすごいっていうか……。吉田さんは反社的な怖いイメージがあって。

吉田 ダハハハハ! 空手の本は作ってますけど反社的な要素はぜんぜんないと思いますよ!

TAJIRI だからちょっと怖かったんです。

掟ポルシェ到着! 話題は“中牧昭二最強説へ

 ……すみません、お待たせしました!!

吉田 遅刻した掟ポルシェの到着です!

TAJIRI よろしくお願いします……(掟ポルシェの格好を見て)すごいですね(笑)。

吉田 中牧昭二Tシャツですね(笑)。

 一番大好きなレスラーだって言うと、みなさんにいい反応をいただいて(笑)。もちろんIWAジャパンは旗揚げから観てます!

TAJIRI そうなんですか! 中牧さん、おもしろかったですよね。もしいまプロレス界にいたとしても話題になるような人ですよ。

吉田 経歴の時点で画期的でしたからね。スポーツメーカーの営業で桑田真澄の暴露本を書いた人がプロレスラーになるっていう。しかも年齢は30代半ばで。あれって内部から見ててもおもしろい感じだったんですか?

TAJIRI 僕も当時ファンでしたけどね。中牧さんおもしろいんですよ、人としても。けっこうお付き合いもあるんじゃないですか?

 いや、まったくないです。

吉田 ボクは一度だけ取材しました、ちょうどピンサロの店長になったときに。エロ本でインタビューしたら、「桑田! 悔しかったらウチの店に来い!」とか吠えてたんですけど、来るわけがないだろっていう(笑)。

TAJIRI 中牧さんけっこう強かったと思うんですよ。僕、浜口ジムの大会でけっこう上までいくぐらいやってたんですけど、中牧さんにスパーリングで勝てなかったですもん。

吉田・掟 えぇーっ⁉

TAJIRI 技とかそういうのぜんぜん知らないんですけど力が強くて、押さえつけられたら返せないんですよ。中京地区のどっかの県の親分さんに興行を買ってもらったことがあって、終わったあとその人のパーティーに呼ばれて中牧さんと行ったんですけど、その人は中牧さんのこと「ショウちゃん」って呼んでて、「ショウちゃんはホントに頼りになる。この前、ふたりでいるときにヤバい外国人、イラン人か何かに囲まれたんだ」って。そしたら中牧さんが、ここで親分に何かあったらヤバいってことで、死にものぐるいで全員頭突きでぶっ倒して、そのヤバそうな人たち、みんな伸びちゃったんですって(笑)。

 うわー! カッコいい!

吉田 ストリートファイト・デスマッチだ!

 ちゃんとケンカも強かったんですね。

TAJIRI ええ。で、頑丈でしたから。あと中牧さんってすごく心に響く言葉をアドリブで言える人でした。新日本の東京ドームの前の後楽園ホール大会で、「ここにいるみんなの気持ちを背負って、俺は東京ドームに行くよ」かなんか言ったんですよ、それがすごく心にきて、俺泣いちゃったんですよ。

吉田 ダハハハハ! 一緒にドームで新日本との対抗戦に出る人間なのに! でも、そこまで気持ちを背負って出た試合でしたっけ?

TAJIRI 蝶野正洋さんとの、ほんの2~3分の試合だったんですけど、いま観るとホントにすごい試合なんですよ、すべて詰まっててすべてちゃんと中牧さんが持っていった。

吉田 有刺鉄線ボード持ってったんでしたっけ。で、やることやってきれいにやられて。

TAJIRI そうです。あの短時間で、見せなきゃいけないことを全部見せてましたね。

 中牧さんのマイクというと、川崎球場で小野(浩志)さんとの血みどろブラザーズ対決で負けたら引退っていう試合で、小野さんが負けて去るんですけど、中牧さん引き留めてくれないかなと思ったら、マイクで「小野、さよなら」(笑)。ビックリしました。

吉田 ダハハハハ! あっさり突き放す!

 あれ、小野さんが家業を継がなきゃいけないっていう事情はあったんですよね?

TAJIRI あれ以上、何も言う必要がないことをちゃんと選んで言ったんだと思います。だから、そこもセンスよかったってことで。

浅野金六は辞めた人のことを銀行強盗にしちゃう?

吉田 そして、掟さんはその頃からTAJIRI選手の試合は観てたってことですよね。

 観てましたね。デスマッチの団体で正統派のプロレスをやってて、なんでここに入ったんだろうって当時は素直に思いました。ほかの団体に行ったほうがよかったよなって。

TAJIRI 当時、入れる団体がなかったんですよ。FMWもみちのくもダメって言われたんで、もう入るとこなかったですね。IWA以下になるとユニオンとかそっちになっちゃうから、僕のなかでこれ以下はなかったし。

 IWAジャパン、いい団体でしたよね、外国人選手が潤沢に来るっていうところも。

TAJIRI それでここが一番いいと思って入ったんで。外国に行けそうだったから。

 あと当時、たまたま友達にIWAの外国人寮に連れて行かれたことがありまして。

TAJIRI どこですか?

 新宿御苑かな。

TAJIRI あ、ビクター(・キニョネス。元IWAジャパン代表)のマンションですね。

 キニョネスさんが借りてたとこだったんですか。外国人選手が来日すると長期滞在するから、そこで代わるがわる寝泊まりして。

TAJIRI 3ヶ月いさせる外人もいたんで、そういうのはみんなそこに入れてましたね。

 そこに行ったとき、クリプト・キーパーからエロ本もらいました。ここで代々受け継がれてるエロ本だって話で。『ザ・ベスト』だったんですけど。もともとはアイスマンの中身の人が持ち込んだヤツだって話でした。

掟ポルシェ

TAJIRI クリプト・キーパーはいまフロリダでお巡りさんになってるらしいですよ。

 お巡りさん!!

TAJIRI アイスマンの中身は中古車屋で。ジェイソン・ザ・テリブルは、不法滞在してたくせに入国管理官やってますよ(笑)。

 それぞれ第二の人生がありますねえ。

吉田 ボクは新宿2丁目在住なので、いまでもIWAの浅野金六社長はよく見かけます。

TAJIRI 浅野金六さんって辞めた人間のことを絶対に銀行強盗にしちゃうんですよ。

 銀行強盗!?

TAJIRI まず荒谷(望誉)さんが辞めたじゃないですか。記者の人が「ホントのところを教えてください、金六さん」って聞くと、「荒谷はね、銀行強盗したのよ」。僕も辞めたとき、「TAJIRIは銀行強盗した。新聞を読んでないのあんた?」って言われて。

 なんなんでしょうね、それ(笑)。

吉田 「それぐらい悪いヤツだ」ってことなんですかね。売上を盗んだ程度じゃなくて。

TAJIRI あと「土下座して謝ってきた」って言うんですよ。「荒谷が土下座して謝ってきたんですよ」って。僕もしたらしいです。

吉田 そんな浅野さんに対する思いは?

TAJIRI 山口さんと同じような感じで。

吉田 なるほど! いろいろあったけど憎しみはない、お世話になりましたっていう。

TAJIRI ええ、それだけです。

 自分も一度だけIWAジャパンのリングにも上がったことがありまして。2000年ぐらいに浅野社長に、休憩時間の20分あげるからバンドのライブをやってって言われて、1分もしないうちに四方から野次が飛んできました。有名なIジャおばさんに野次られて。

TAJIRI ああ……。

 「おまえらの歌を聴きに来たんじゃねんだよ!」って。だから持ち時間20分のところ5分だけしか持たなかったです(笑)。

吉田 掟さんの相方のロマン優光がブチ切れて、そのときお客さんと揉めたんでしょ?

 ああ、お客さん殴ってましたね。野次を飛ばしてた客の横に行って殴ってました。

TAJIRI ハハハハハハ!

 「客にこんなことしていいと思ってんのか!」「おまえなんか客じゃねえよ!」って。あそこはけっこう特徴的なお客さんがいるから、野次もガンガン飛んできますよね。

TAJIRI いまプロレスで野次を飛ばす人に対して、みんなが「なんであんなヤツがいるんだ!」みたいに言うじゃないですか。あれってどうなんですかね? 僕らの世代だとそれは当り前の感覚なんで、僕はまだそこから抜けてなくて。いまの人は嫌なんですかね?

吉田 時代が変わっちゃいましたからね。

 個人的には、どれだけおもしろい野次が飛ばせるかの大会だと思うんですけど。

TAJIRI そうですよね(笑)。いまはそういうのが雑音になっちゃうんですかね?

 質が問われるんでしょうね。TAJIRIさんは野次に怒るタイプじゃないんですね。

TAJIRI そうですね。だって、野次は聞いてておもしろいじゃないですか(笑)。

桜田さんってキレないと強くない

TAJIRI 桜田(一男=ケンドー・ナガサキ)さんの話もいくつか聞きましたよ。中牧さんと桜田さんがふたりで車に乗ってて、桜田さんが運転してて、暴走族に囲まれたらしいんですよ。で、桜田さんが停めてバイクごと全員ぶち倒して、そしたら前のほうにいたヤツらが黙って見てるんですって。桜田さんがそっちにタッタッタッて行ったらブオーッて逃げちゃって。中牧さんは怖くてすぐに出たいんだけど、ドアロックかかってたらしくて「出してくれー! 出してくれー!」って叫んで(笑)。

吉田 ランボー・サクラダ感全開ですね!

TAJIRI 亡くなった安達(勝治=ミスター・ヒト)さんがよく言ってたんですけど、桜田さんってキレないと強くないらしいんですよ。普段はおとなしくて強くないって。

吉田 たぶん修斗のリングに上がったときもスイッチ入らないままだったんでしょうね。

TAJIRI ぜんぜん。数分前まで寝てたらしいですから。ルールも何も聞いてない。

吉田 ダハハハハ! 勝てるわけがない!

TAJIRI でも、やっぱ強かったと思うな。安達さんには「1円も持ってないけどTAJIRIくん飲みに行こう」って言われたことがあって。「大丈夫なんですか?」って聞いたら、「大丈夫だから」って。なんかプロレスの話してる人たちが居酒屋にいたんですよ。「あそこ行こう!」って、奢らせてましたね。「ウチの娘を嫁にやるよ」とか言って。持ってないくせに、「じゃあそろそろお会計しようか」とか言って財布を出そうとするんですよ。で、その人たちに「そんなわけにいかないですよ!」とか言わせて。

吉田 いろんな場で鍛えられてますね。

TAJIRI はい。大日本のバスで、(グレート)小鹿さんってパーキングで停まるの嫌がるんですよ。パーキングで停まるとみんな仲いい者同士で飯食うじゃないですか。周りに誰もいなくなって嫌だからコンビニに行けって言うんですよ。それでコンビニで酒を買い込んで、小鹿さんは焼酎のウーロン茶割りが好きなんですけど紙コップがないことが発覚して、「どうすんだよ、飲めねえじゃねえか!」って騒いでたことがあって。そしたら安達さんがペットボトルをナイフで半分に切って、「はい小鹿さん、これコップになるよ」って渡したんです。そしたら「TAJIRIくん、あれ外人がションベンしたペットボトルなんだよ。ほら飲むぞ!」って(笑)。とにかくお茶目でカッコよかったですね。

吉田 そういうアクの強い人たちと接してると、最近のプロレスにもの足りない部分もあるでしょうね、ちゃんとするのもいいけど、もっとデタラメでいいんじゃないか、的な。

TAJIRI そうなんですよね。そういうかわいいおっちゃんがやるのっておもしろいじゃないですか。それが昔のプロレスの味わいだった気がするんですよね。……こういうプロレスの深い話ばっかりで大丈夫なんですか?

吉田 なんの問題もないです! そもそも読者は中牧昭二を知ってるのかっていうことも全部無視したうえでやってますから(笑)。

 注釈ナシ!

吉田 山口日昇の説明すらない(笑)。

吉田豪と掟ポルシェ

TAJIRI いま『週刊プロレス』のインタビューでもこんな深い話しないですからね。だって記者が中牧昭二とか知らないですもん。

吉田 そうか、寂しいなあ……。

 昔ながらのプロレスラーはいづらいんでしょうね、プロレスラー的な体質の人は。

TAJIRI それでおもしろいんですかね? キ●ガイがやってるからおもしろいのに。

吉田 ダハハハハ! 同感です!

* * *

※この続きは、現在発売中の『電池以下 吉田豪 編』にてお読みいただけます。

本書では、ここで紹介したTAJIRIさんを含む総勢10組へのインタビューを敢行。ゲーム&カルチャー誌『CONTINUE』連載時のインタビューを大幅に加筆修正し、知られざる衝撃的かつディープ、そして感動のエピソードの数々を収録しています。

◆出演
片岡鶴太郎(お笑い芸人)
木村一八(俳優)
安東弘樹(アナウンサー)
セイントフォー(歌手)
中島 愛(歌手)
TAJIRI(プロレスラー)
ISHIYA(パンクロッカー)
山根 明(元・日本ボクシング連盟会長)
高橋廣行(「制服向上委員会」プロデューサー)
秋元 康(「AKB48」「乃木坂46」「櫻坂46」プロデューサー)

吉田豪・掟ポルシェ著の『電池以下 吉田豪 編』は大好評発売中です!

『電池以下 吉田豪 編』(太田出版)

筆者について

吉田豪

よしだ・ごう。1970年、東京都出身。プロ書評家、プロインタビュアー、ライター。徹底した事前調査をもとにしたインタビューに定評があり、明石家さんま、矢沢永吉、秋元康、羽海野チカなど数多くの著名人より厚い信頼を受けている。主な著書に『男気万字固め』、『人間コク宝』シリーズ、『サブカル・スーパースター鬱伝』、『書評の正座』など。

掟ポルシェ

おきて・ぽるしぇ。1968年、北海道出身。ニューウェイヴ・バンド「ロマンポルシェ。」ボーカル&説教担当。ほかにも執筆、俳優、声優、DJなど幅広いジャンルで活躍中。主な著書に『説教番長・どなりつけハンター』、『男道コーチ屋稼業』、『男の!ヤバすぎバイト列伝』、『豪傑っぽいの好き』、『食尽族 読んで味わうグルメコラム集』など。

関連商品