心中の招待コードが届いた/『自由慄』より

カルチャー
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『かわいそ笑』『6』に続く、新進ホラー作家・の単著第3作目となる『自由慄』が1月26日に太田出版より刊行されました。294の短文と、5つの掌編から構成される本書は、本書に込められたメッセージを読み解くことで、恐怖だけではなく、思春期に多くの人が味わったであろう苦痛を味わうことができます。OHTABOOKSTANDでは本書の発売を記念して、全3回にわたって本文の一部を試し読み公開します。
第3回目は、本書CHAPTER1より、短文と掌編を特別にご紹介します。

CHAPTER1「生まれたい」

心中の招待コードが届いた

例えばLINEで、トーク履歴の脈絡もなく突然に、ある人から何かの招待コードが届くことがたまにある。それは得てして、送り主がやっている何らかのソシャゲとか、アプリとか、そういったもののインセンティブを得るための行いだろうと思う。大体の場合、招待コードを介した送信者と受信者は、お互いに何らかの利益を享受することのできる仕組みになっている。ゲーム内アイテムがもらえるとか、何かの値段が安くなるとか。そうした温度感の利益だ。

更に言うならば、送信者からすれば招待コードを送ることのできる関係にある人物は限られてくる。基本的に招待コードは送信者側が何らかのきっかけを得て配り回るものであって、受信者側がそれを望んだことがきっかけになるというパターンは稀だ。

つまり、招待コードを介した収受の関係は、一見双方向的には見えるものの、実情は一方通行的である。送信者は良くも悪くも、「この人だったら突然に招待コードを送って良い」という認識を持ったうえで、殆ど一方的に「招待」を送ろうとする。職場の上司に送ることはまずないし、あまり話さない部活の後輩に送ることもないだろう。繰り返しになるが、良くも悪くも「この人になら」というその人にとってのバイアスが働いていることは確かであろう。物理的な招待状とはまた異なる人間関係の前提がそこにはある。

それを前提として。

私のもとには、  からいわば心中の招待コードが届いていて。

私はただひたすら、それを既読無視し続けているのである。

だから──

私は、  から届いた手紙を茫洋と見詰めながら考える。

きっと彼女にとって、その自由律俳句は、

今もなお生き永らえている私に対する、婉曲的な追悼句なのだろう。

* * *

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