Clubhouseが差別の温床になっている? 米国で問題視されている人種差別、性差別、デマ・誤情報の流布

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2024年3月31日、惜しまれつつもサイトが閉鎖されることになったWebメディア「wezzy」。そこで掲載されていた記事の中から、OHTABOOKSTANDで「やさしい生活革命――セルフケア・セルフラブの始め方」を好評連載中の竹田ダニエルさんのコラムを、竹田ダニエルさんと「Wezzy」編集部の許諾を得た上、OHTABOOKSTANDでアーカイブしていくことになりました! 今後は貴重な論考をOHTABOOKSTANDにてお楽しみください。

※本記事は2021年2月15日に「wezzy」に公開されたものを転載しています。

 ここ数週間ほど日本では音声会話をベースとしたSNSアプリ「Clubhouse」が爆発的な人気を得ている。

 しかし米国では、Clubhouseには差別やヘイトスピーチを助長してしまう構図があることが昨年から大々的に問題視されている。新たな「ツール」としてのテクノロジーが社会にもたらす影響、そして逆にテクノロジーが社会から受ける影響について考える必要性が提起され続けているのだ。

 Clubhouseでユーザーは、開設された「ルーム」に入り様々な話題に関する会話を聞きに行くことができる。セレブや有名起業家の「オフレコ話」を聞いたり、彼らと実際に話すことが可能な点も大きな魅力とされている。

 誰でもアプリをダウンロードしてすぐに使えるわけではない。完全招待制であるため、まずは既に会員になっている人から招待される必要がある。また、トーク部屋で参加者が発言したい場合、挙手をしてモデレーターに許可をもらわなければならない。

 チャット・コメント欄は存在しないトーク部屋の会話を録音して公開することは禁止されており、その「記録が残らない」仕様も特徴的だ。

 差別などの問題が起きるのは「どのアプリだってそうでしょ」「そんなに文句言うことじゃない」と思う人もいるかもしれない。しかしクローズドなSNSであるClubhouseだからこそ起きることや深刻化させる問題がある。またテクノロジーを応用する際に、現代的な倫理やモラルを持って安全で公平な場を提供するのが「2021年的な価値観」であることも事実だ。他のアプリでも起きているのだから問題ない、というのは通用しないだろう。

 Black Lives MatterやMeTooをきっかけにテクノロジーにおける差別、バイアス、倫理観の影響などが盛んに議論されているのにも関わらず、既存の権力構造は変わることなく、むしろ逆方向に進んでしまったのがClubhouseの問題だと指摘されている。インターネットを使って「誰とでも繋がれる」時代だからこそ、テクノロジーが生まれた社会的な背景や現在進行形で発生している問題に目を向ける必要があると考えられているのだ。

 前編では米国で起きたClubhouseの事例をいくつか紹介していく。

1)人種差別やLGBTQ差別など、マイノリティに対する差別問題

 例えば、Clubhouseで発生したマイノリティに対する差別の指摘は以下のようなものだ(すべて筆者による翻訳)。

「反ユダヤ人、ホモフォビア、トランスフォビア、ミソジニー、人種差別等々を目前にしてもなおClubhouseが何もアクションを起こさないことを受けて、私はポジティブなものを(アプリ内に)もたらし続けるわけにはいかない。」

I can’t continue to bring positive things in wake of the continued lack of action by CH in the face of anti semitism, homophobia, transphobia, misogyny, racism ( etc etc).

Rhian Beutler(@rhiankatie)December 22, 2020 https://twitter.com/rhiankatie/status/1341084996031811585?ref_src=twsrc%5Etfw%7Ctwcamp%5Etweetembed%7Ctwterm%5E1341084996031811585%7Ctwgr%5Ea59c01af59aa19cc5d4c3beefaec8ca523975021%7Ctwcon%5Es1_&ref_url=https%3A%2F%2Fwezz-y.com%2Farchives%2F86712

「反ユダヤ的言論やハラスメント問題で注目を集めている招待制アプリClubhouseは、ユーザーが安心して利用できるようにすることに重点を置いているという。しかし、その性質上、ミソジニーや人種差別に媚びる権力者たちの避難所となっている。」

“YOU BECOME HOSTAGE TO THEIR WORLDVIEW”: THE MURKY WORLD OF MODERATION ON CLUBHOUSE, A PLAYGROUND FOR THE ELITE

 米国では新型コロナウイルス拡大の時期と重なり、当初Clubhouseへの注目が集まった。しかし、ジャーナリストたちの利用が広がっていくうちに、クラブハウスで差別的な発言が横行していることが問題視されるようになった。

 実際にルームのタイトルに差別的な言葉が掲げられていたり、有名人同士が差別的な話題を「ネタ」とした会話で盛り上がる場面、事実と異なる発言がされることがある。しかしモデレーターによって選定された人しか話せず、さらに音声の記録ができないため、指摘や反論、追求ができず放置される状況が続いた。実社会において差別を受けていたり、マイノリティとして声をあげづらいような生活をしている人たちが、「表現の自由」の名の下でアプリの中でも被害を受けやすいのだ。

 アプリの規約上では差別的な発言やいじめと見られる行為は禁じられているものの、閉鎖的な空間であり、かつ「権力」や「知名度」が可視化されやすいようなアプリの構造上、実社会でも頻繁に起きる差別的な発言をなくすことは現実的には難しい。

 「Clubhouseは黒人女性のための安全な空間であるはずだったが、実際は違った」というタイトルの記事では、ミソジノワール(特に黒人女性がミソジニーの標的にされる問題)について当事者の目線から詳しく書かれている。ドレイクやヴァージル・アブロー、オプラなどのセレブがClubhouseの初期ユーザーとして参加しており、イギリスではユーザーの過半数が有色人種の人たちだとされていたことによって、人種差別やヘイトスピーチが横行している他のSNSとは異なり、黒人女性にとって安全な場所であることが期待されていた。しかし残念なことに、アプリが普及していくうちに、特に黒人女性たちの安全が侵害されていったことについて綴っている。

2)浮き彫りになるミソジニーの問題

 新しいSNSツールが浮き彫りにするのは、人種問題だけではない。Clubhouseが日本で話題になればなるほど話題に上がってくるのが、性差別問題だ。

 実際社会の会議で女性が発言権を与えられにくいこと、そもそも意思決定の場から排除されていることは長年問題視されている。そこに加えて、男性が女性の発言を遮ったり、同性同士での「内輪ノリ」で盛り上がる構図は特にスタートアップやテック界隈においては日常茶飯事だ。

 Clubhouseにおいても、男性同士の内輪の会話の中で女性を蔑むような発言があったり、若い人の発言が大人たちによって遮られたりすることも問題視されている(米国内では実社会でもIT企業が男性社会になっている。アプリで起きている問題は実社会を反映していると実感できる)。

 Quoraでモデレーションを主導していたEstevez氏のスレッドや記事がプラットフォームとしてのClubhouseの問題点、そして改善方法について詳しく記載している。

「本質的な問題は、オンライン上でのミソジニーと、男性が社会的な会話の中で女性をどれだけひどく扱っているかということです。男性は頻繁に会話に割り込み、無礼な態度をとります。このようなことが起こらないような文化を確立するにはどうすればいいのでしょうか?」

But I want to step back from the mechanics of moderation. The real problem here is online misogyny and how badly men treat women in social conversations. Men are often interruptive & rude. How do you establish a culture where this doesn’t happen? /9

Tatiana Estévez@Tatiana_Estevez)July 4,2020 https://twitter.com/Tatiana_Estevez/status/1279116282160467970?ref_src=twsrc%5Etfw%7Ctwcamp%5Etweetembed%7Ctwterm%5E1279116282160467970%7Ctwgr%5Ea59c01af59aa19cc5d4c3beefaec8ca523975021%7Ctwcon%5Es1_&ref_url=https%3A%2F%2Fwezz-y.com%2Farchives%2F86712

「Clubhouseは、悪い利用者を排除するために、規約と文化の両方でこの問題に対処しなければならない。女性の声に耳を傾け、重要視することを奨励する必要がある。はっきり言って、初期利用者の技術者の男性の多くは聞き上手ではなく、女性の声を聞くことに価値を見出せていない。」

 アプリのカルチャー上、「権威」を持った男性起業家などがトークの中心的立場を担いがちになってしまい、現実でのマンスプレイニングやカジュアルなミソジニーが明確に可視化されてしまうのだ。

 Z世代のアクティビストのNadya OkamotoさんはClubhouseを積極的に使っていながらも、「ここまで話を遮られるのは、Clubhouseがはじめて」と発言している。彼女の場合は同世代の若者たちや女性、マイノリティなどを中心にしたインクルーシブなルームを作ったり、自分がマイノリティであるルームでも積極的に発言することで、Clubhouseで新たな連帯を産むことに努めている(https://twitter.com/nadyaokamoto/status/1354472568531648519

「大富豪たちに、私たちを”女性たち”と呼び、Clubhouseで発言権を独占するのをやめるように言った。私たちは大人の女性であり、喋るための権利をいちいち男性からもらう必要なんてない(すぐに部屋から追い出され、戻るために他の女性たちにDMを送らなきゃいけなかった……)」

https://www.instagram.com/p/CKuviOUHARh/

3)デマや誤情報の流布

 米国時間の1月30日に、テスラやスペースXをはじめとした企業の創設者であるイーロン・マスクがClubhouseのルームに参加するとして、日本でも大いに話題になった。入室希望者はルームの上限人数である5,000人の参加者を遥かに上回り、宇宙旅行、火星の植民地化、仮想通貨、AIやコロナウィルスのワクチンなど様々な話題について質疑応答形式で答えた。

 ルームから溢れてしまった人たちはYoutubeでの「生配信」を通してマスク氏の応答を見ていたが、鋭い質問をしたり誤情報を指摘する役割を担うジャーナリストが発言権を与えられなかったり、ブロックされていることでルームに入れず、マスク氏に対する質問の「攻め」が非常に甘かったことや誤情報が放置されていたことが強く問題視された。

So,

@elonmusk tells world that he will be on Clubhouse tonight but many reporters can’t listen because Marc Andreessen (Clubhouse’s biggest investor) blocks them. So, yeah, reallly time to think abt power powerful people have to shape narrative exactly as they want. #propaganda

Jessica Lessin(@Jessicalessin) February 1,2021 https://twitter.com/Jessicalessin/status/1356091226093588482?ref_src=twsrc%5Etfw%7Ctwcamp%5Etweetembed%7Ctwterm%5E1356091226093588482%7Ctwgr%5E6a61c29b5ca84a534e2d660e47c4129378cbbd5a%7Ctwcon%5Es1_&ref_url=https%3A%2F%2Fwezz-y.com%2Farchives%2F86712

「マスク氏は過去に、コロナウィルスに関する誤情報の拡散に貢献してきた。Clubhouseのインタビュアーはそのことについては言及しなかったが、ワクチンの流通についてどう考えているのか、今後どうなっていくのかを聞いた。また、彼はジョンソン・アンド・ジョンソン社のワクチンはFDAに承認されていると主張したが、これは事実ではない。」

“It’s Going To Be Very Dangerous,” Elon Musk Discusses Life On Mars, Robinhood Drama On Clubhouse

 Twitter社が誤情報を含む記事の拡散を禁止したり、ドナルド・トランプ氏のように影響力の大きい人物の発言に警告マークをつけるなどの対応を急いでいるのに対し、Clubhouseはミスインフォメーションに対する処置の甘さも指摘されている。

「虚偽や誤解を招くような情報についてユーザーに警告を発し始めた他の技術プラットフォームとは異なり、Clubhouseは誤報に対抗するための目に見える免責事項を提供していません。視聴者がアプリ内で反対意見を表明したり、情報を共有したりするためのコメントセクション、「いいね!」ボタン、その他のリアクションボタンもありません(ただし、Clubhouseの広報担当者は、「ユーザーは部屋から直接リアルタイムで[利用規約やコミュニティガイドラインの]違反を報告することができ、Clubhouseの信頼と安全チームによる調査が行われます」と強調しています)。

 その代わりに、彼らはしばしばTwitterを使ってClubhouseで何が起こっているかを議論しています。パリでのテロに関する議論の録音を共有した匿名のユーザーは、このプラットフォームが虚偽の情報を拡散するツールになる可能性があると述べています。”彼らが言っていることは意味がない “とそのユーザーは言いました。”誤報、誤報、誤報、誤報のようなもので、それを信じる何百人もの人々が座って聞いている。」

“YOU BECOME HOSTAGE TO THEIR WORLDVIEW”: THE MURKY WORLD OF MODERATION ON CLUBHOUSE, A PLAYGROUND FOR THE ELITE

4)聴覚障害や視覚障害を持つ人に対してインクルーシブなデザインになっていない問題

 Clubhouseを一度使うと実感するのが、シンプルなUIと引き換えに生まれてしまう「分かりにくさ」だ。音声はただ流れるままで、会話の字幕やコメント欄は存在しない。さらに、アイコンの周りに細い枠が付けられることで「喋っている人」を見分けることができるが、人数が多い部屋などでは誰が発言しているのか非常にわかりにくい場面も多い。

 そこで浮かび上がるのが、聴覚障害や視覚障害を持つ人に対してインクルーシブなデザインになっていないという問題だ。

「Clubhouseのユーザー体験は(聴覚障害者にとって)非常に酷く、ルームを始めることすら躊躇してしまいました。最初からプロダクトをインクルーシブに開発しないと、そうなってしまう。」

Liam O’Dell: Social media’s move towards audio and what this means for deaf people

 例えばTwitterはTwitter Spacesという新機能をリリースし、字幕機能を追加するなど、聴覚障害者にとってアクセスしやすいサービスになっているのに対して、Clubhouseはインクルーシブではなく、使える人が限られてくる。

***

 新しいプロダクトだとはいえ、このように初期段階でアプリ内のカルチャーや使用方法が定まってしまうことは、テック関係者からも問題視されている。

 リリースから約一年が経とうとしている今、インクルーシブな機能の追加や差別などに対する規制の強化などが特段改善されていないことも批判の対象になっている。これから先、これら批判やフィードバックを糧にどこまで機能の改善や追加が行われるのかがClubhouseに期待されていることだ。

 前編では主に、米国で起きているClubhouseでの様々な差別の問題を指摘した。後編では、それらの問題がなぜClubhouseで起きやすいのか、アプリの構造やテック系にはびこるミソジニーの問題などを紹介していく。

筆者について

たけだ・だにえる 1997年生まれ、カリフォルニア州出身、在住。「カルチャー×アイデンティティ×社会」をテーマに執筆し、リアルな発言と視点が注目されるZ世代ライター・研究者。「音楽と社会」を結びつける活動を行い、日本と海外のアーティストを繋げるエージェントとしても活躍。著書に文芸誌「群像」での連載をまとめた『世界と私のA to Z』、『#Z世代的価値観』がある。現在も多くのメディアで執筆中。「Forbes」誌、「30 UNDER 30 JAPAN 2023」受賞。

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