盲目の芸人・濱田祐太郎が『ブラリモウドク』で得た確信 『迷ったら笑っといてください』試し読み

迷ったら笑っといてください

『R-1ぐらんぷり』チャンピオンで、盲目の芸人・濱田祐太郎さんの『迷ったら笑っといてください』(太田出版)。“多様性”をうたうテレビ界への疑念、実話漫談にこだわる理由、不安に苛まれた賞レースの予選、初の冠番組で得た手応え、“いじり”について思うこと……濱田さんにしか持ち得ない視点でそれらを語り尽くした、ご自身初のエッセイ集です。

本書制作のきっかけのひとつは、2024年6~7月に大阪・ABCテレビで放送された『濱田祐太郎のブラリモウドク』でした。この『ブラリモウドク』が、一時間の特別番組として9月14日に放送されることが決定! 記念として、濱田さんが『ブラリモウドク』で感じた「確信」について語られている本書の一部を掲載いたします。

街ブラ番組『濱田祐太郎のブラリモウドク』

 2024年には、念願のバラエティでの冠レギュラーをやらせてもらいました。ABCテレビの『濱田祐太郎のブラリモウドク』です。特番放送権を懸けて番組同士が対決する「ちょいバラトーナメント」という枠で、全4回の放送でした。

 前から俺のYouTubeを観てくれてたディレクターさんが、「濱田さんの毒のあるコメントが面白いから、街ブラロケと毒舌を組み合わせてなにか企画ができないか」と社内で提案してくれたそうです。それで生まれたのが、大阪のいろんな街に行ってそこに毒舌を吐いていくロケ企画。声をかけていただいたときは、もうシンプルに「やったー!」でしたね。喜びが100%でした。

 事前の打ち合わせのとき、ディレクターさんがいろいろとアイディアを持ってきてくれて「濱田さんのNGはありますか?」と確認してくれました。出されたものは俺としては全部オッケーだったんで「全然いいじゃないですか、やりましょう」って答えました。「スカイダイビングしながらカップラーメン食え」って言われたらさすがに無理ですけど、そんな無茶なものはなかったんで。

 番組では毎回、ゲストに招いた芸人がおすすめする大阪の”推し街”を俺と藤崎マーケットのトキさんが歩きます。

 初回は後輩のグレン世紀と一緒に堀江に、2回目は同期のもも・まもる。と京橋に、3回目はバッテリィズ・エースと西成に、最終回は翠星チークダンス・ちろると梅田に行きました。堀江ではハンバーガー屋さんや古着屋さんに行って、京橋では立ち飲み屋をはしご。西成では射的やクライミングで遊んで、最後は梅田でスイーツビュッフェに行ったり展望台に上ったりしました。

 うれしかったのは、初回収録の冒頭で「濱田祐太郎のブラリモウドク!」ってタイトルコールするとき、スタッフさんがカンペを出してくれたことです。俺は見えてないんで出てようが出てまいが関係ありません。でもトキさんがそれを拾って「お前、見えてるやろ!」って言ってくれて笑いになった。

 スタッフさんもわかった上でカンペを出してくれてたんでしょうね。お笑いをやろうとしているのが伝わって、「ボケていいんだ」って思えたし、「こっちも頑張らなあかんな」って気合が入りました。

 特番を懸けた視聴者投票対決は負けてしまいました。でもプロデューサーの方から「投票対決は毎年やってるんですけど、いつも以上にSNSが盛り上がって反響がすごいです。投票では負けでも、それ以外の細かい部分はかなり数字もよかったですよ」って教えてもらって、うれしかったですね。俺自身は視聴率や数字の部分はあんまり気にしてません。だけどスタッフさんは嫌でも目に入ってくるはず。そこで力になれたなら、芸人として本望です。

 俺が交流のない芸人さんもSNSで結構話題にしてくれてました。1回も会ったことないやす子が「最高の番組でした!」って投稿してくれてたんで、トキさんと面識あって観てくれたんかな? と思って聞いてみたら「会ったことないねん」とのこと。ほんまに純粋に楽しんでくれたんやな、ってわかりました。

結果を積み重ねて得た確信「俺はやれる」

 『ブラリモウドク』をやってみて、「障害者は面白くない」って意見は、少なくとも濱田祐太郎には当てはまらないと確信できました。

 これはもう、積み重ねですよね。

 舞台に立ってネタやってお客さんが笑ってくれて「自分のネタはお客さんに笑ってもらえるぐらいのものにはなってるんやな」ってところから始まって、賞レースの決勝残った、『R-1』優勝した、そのレベルのネタができてる、じゃあネタは「面白い」で間違いないやろう。そういう自信が持てた。

 そこから先で「ネタ以外はどうなんや」ってなったら、バラエティに呼ばれたときも「面白い」という反応が多くて、ここでもいけるんやな、と思えた。この何年かでいっても、関西のネタ特番『オールザッツ漫才』とか、深夜番組の『あれみた?』で俺の一日に完全密着されたり大阪マラソンに挑戦したりする企画とか、いろいろやってます。

 そして『ブラリモウドク』で、”濱田祐太郎”をメインに据えたらどういうリアクションが返ってくるんやろう? と思っていたら、また「面白い」と言ってもらえた。これは自信を持っていいんじゃないかなと思いました。

 『ブラリモウドク』を撮っていて、スタッフさんの中では多分いろいろ気遣いや配慮があったんでしょうけど、俺からしたら「やりづらいなぁ」「これはできひんな」って感じる場面は特になかったです。やっぱり工夫ひとつで、目が見えなくてもロケ番組は全然できるんですよ。

 ほかの番組に出たときも、事前にカメラがどのあたりにあるかをスタッフに教えてもらったり共演してる人がカンペを読んで進行したりすることで問題なくやってきました。それと、これはまだ実際にやったことはないですが、ラジオみたいにイヤホンをつけてスタッフから指示を出してもらうスタイルにすれば進行もできると思います。目が見えないからできないと思われていることも、やり方次第でできるんだって知ってほしいですね。

 あ、一個だけ、『ブラリモウドク』で俺の中での反省点があります。「街に毒を吐く」がコンセプトで、ディレクターさんからは「どんどん毒づいてもらって大丈夫です」って言われてたのに、ちょっと抑えちゃったんですよね。頭の片隅に「これ、テレビで放送されるんやな」というのがあって。街に毒づいて街から文句言われたらめちゃめちゃめんどくさいじゃないですか。初回の堀江ロケのオープニングで「点字ブロックが一個もない、おしゃれなだけの街」とは言えたものの、もっといろいろ言えたらよかったです。

*  *  *

書籍名:『迷ったら笑っといてください』
著者:濱田祐太郎
定価:1,980円(1,800円+税)
発売:2025年6月25日(水)
https://www.ohtabooks.com/publish/2025/06/20195531.html

子供の頃に憧れたテレビの世界に、障害者の姿は見当たらなかった。それでもバラエティ番組で活躍する芸人になることを夢見た。ただただ、お笑いが好きだったから──。

『R-1ぐらんぷり』第16代王者にして、盲目の芸人・濱田祐太郎。その芸人人生は「どれだけ頑張っても無理なのかもしれない」と「俺は面白いはずや」の狭間で揺れながら、今日まで続いてきた。

“多様性”をうたうテレビ界への疑念、実話漫談にこだわる理由、不安に苛まれた賞レースの予選、初の冠番組で得た手応え、“いじり”について思うこと……濱田にしか持ち得ない視点でそれらを語り尽くす、自身初のエッセイ集。

迷ったら、笑っといてください。

爆笑問題・太田光 推薦!
「いま日本で、シンプルな『漫談』を出来るのはこの男だけ。
濱田、気づいてないだろうけど、俺はいつもすぐそばでお前を見てるからな。あ、出番の前は必ず鏡を見ろ。毎回鼻クソついてるぞ。」

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