2025年9月26日に発売された『闇バイトの歴史 「名前のない犯罪」 の系譜』(藤原良・著)から内容を一部公開。
「案件」か「犯罪」か。タイパ社会に現れた全く新しい犯罪形態「トクリュウ」。その興隆の過程は、そのまま日本社会の構造変化の縮図でした。スキマ時間、リクルーター、兼業、アウトソーシング…いま、労働と犯罪の境界線は限りなく細くなっています。
本書では、末端がいくらつかまっても絶対に本体が尻尾を見せることはない、そのトクリュウ特有の構造と実態を詳細に追います。
“バカ”が来てくれたほうがいい
二〇二二年から二〇二三年の日本で被害総額六〇億円以上、ついには殺人にまで手を染め、トクリュウそして闇バイトの卑劣さを世間に知らしめたルフィ広域強盗事件。その捜査の過程で、犯人グループとの関係性を当局に疑われた経験を持つ青谷寿郎氏(仮名)によると、リクルーターの基準として闇バイトの実行役を集める際は、
「社会経験が乏しくて、政治や法律に関心もなくて、働く気はあるけど来月の給料日まで待てなくて、今日にでもカネが必要な奴が合格です」と話した。
闇バイトに合格する者のポイントとして重視される部分をまとめると、〝幼稚で、被害について想像すらできない、仮に捕まっても謝ったら許してもらえる程度にしか罪の重さを考えておらず、とにかくすぐにカネが欲しい奴〞となるのだろうか。そこに、本書で触れた『サクラ』の要素が加わることで、より合格率が高まるといったところではないだろうか。
「バイトしたい奴は、誰でもカネが欲しいわけで、だから募集はまず〝高額報酬〞でいきますよ。時給一〇〇〇円じゃ響かないでしょ。最低でも例えば日当五万とか一〇万とか。これは絶対やりますね。これで引っ掛けるんです。
でも、普通の人なら、そんな(うまい仕事は)ないって気付きますでしょ? そんなのがあったら世の中もっと景気がいいわってなるでしょ? だから社会経験が浅くて政治にも関心がない奴になるんです。
次に、逃がさないとか、警察に相談に行かせないようにするために、身分証の写しを送らせるんです。これだけプライバシーや個人情報のやり取りにうるさい世の中になっているのに、ホイホイと身分証の写しを添付してくる奴って、法律知識が常識レベル以下でしょ。
それで、やり取りの最中に、応募者から『大丈夫ですか?』みたいな質問が来たら、カネの画像を見せるんです。だいたい一〇〇万ぐらいをテーブルの上にワァ〜ッと広げて。『みなさんこれぐらい稼いでますけど、あなたはどうしますか? 応募辞退でもこちらは構いませんけど』ってね。
普通、まともな仕事でこんなやり方はしないでしょう。カネ見せて、やるかやらないか決めろみたいに煽るのって、売春させる時ぐらいでしょ? これでやらしてよってね。でも、売春って犯罪じゃないですか。だけど、誰にもバレなきゃいいかなって思っちゃうからやるんでしょ。それぐらい、今日にでもカネが欲しい奴はやっちゃうんですよ。
まぁ、まともな社会人に来られちゃうと、どっかのタイミングで警察に行かれるだけですから、そんなリスクはこっちも負いたくないですから、なるべく〝バカ〞が来てくれたほうがいいんですよ」(青谷氏)
闇バイトの募集において説得力を持つのは、応募者に対する企業説明でもなく、預かった身分証に対する責任保証説明でもない。労基法についての説明も省略され、仕事へのやりがいや熱意も求められない。ただ一つ、大金の画像を見せて、とにかくカネ、カネ。カネを求める欲望が、重要視されるのだ。
こんな仕事に手を出す人は、確かにバカと言われても仕方がないかもしれない。しかし、いくらなんでもバカばかりを集めてちゃんとした仕事になるのだろうか?
「バカって、言われたことしかやらないでしょ。職務に忠実で正確っていう言われたことしかやらないタイプじゃなくて、〝他のことができない〞とか〝考えない〞とか、そういう感覚の奴。そういう意味で言われたことしかやらない奴。要するに言いなりですよ。それで給料もらえるならラッキーぐらいにしか思わない奴。こっちとしてはそういう奴のほうが便利なんですよ。そんな奴だからこそ何も考えずに、こっちの指示通りに受け子とか運び役をやってくれるんですよ。普通にバカですよね」(青谷氏)
トクリュウにとって、ロボットのように指示通りに動く人間であればあるほど都合がいいというのはよくわかった。しかし、闇バイトに応募する人には、この募集が闇バイトの募集だと気が付かない、自分のやる業務が闇バイト犯罪だとわからないまま働いてしまった人もいただろう。トクリュウによって騙されてしまった人もいたはずだ。
闇バイトに参加してしまう余地がある人に、知識を与えて啓蒙・啓発するだけではなく、社会的・福祉的にサポートする必要がある対象と捉えて、何らかの対策を講じる必要性を感じる。