ホラーの帝王スティーヴン・キングの作品は、常に“日常と地続きの最悪”が描かれているのが特徴。必ずといって良いほど「困った人」が登場しますが、困った展開を運んでくるキャラクターたちが見せる一面は、ひょっとしたら普段接する人々にも潜んでいるかもしれません。まるでデジャブのような、物語の主人公たちを悩ませる困りの種たちには、どう対処するのが正解なのでしょうか?
●高圧的なマウンティング系「ペニーワイズ」(『IT』)
『イット』で子供たちを恐怖のどん底に突き落とし……というかむしろ浮かせた、人喰いクラウンのペニーワイズ。その正体は、相手が最も恐れるものに姿を変えるシェイプシフターです。世界のトラウマ的スーパーヴィランですが、実質は子供たちが彼を怖がらず「お前なんか怖くない」と強気でいれば、急に萎縮してしまう臆病者。
その姿はまるで虚勢を張るかのようにマウントを取って、威圧的でいる絶対近寄りたくないあの人みたい。自分より頭が抜きん出る存在に高圧的に迫ってくる。さらに神出鬼没で、相手を常に貶めようとしている大変趣味の悪い側面もあります。そんなペニーワイズには、毅然とした態度で相手にしないこと。いじめっ子と一緒で、構うだけ、恐れるだけ相手に力を与えてしまいます。
●理不尽パワハラパーソン系「ノートン」(『ショーシャンクの空に』)
人の気持ちを無視して難題を押し付ける人物、嫌ですよね。そんなパワハラパーソンが『ショーシャンクの空に』の悪役ノートン所長。彼の最も危ないポイントは、理不尽な理由を振りかざしても力関係でパワハラを正当化することです。敬虔なノートンは、キリスト教の名のもと罪人を暴行していました。それは、たとえ囚人と刑務所長という関係だからと言っても、許されるものではありません。彼の所業に耐えられず、心を壊した登場人物も当然いました。
しかし、そんなパワハラパーソンには、その悪事を告発して残るのも手ですが、主人公アンディのように一時的でもいいから賢く立ち回り、その場を去りましょう。解放され、大粒の雨の中ようやく見上げたそこには、広い世界と希望に満ち溢れる未来があるから。
●スネ夫 スネ夫系「パーシー」(『グリーンマイル』)
高圧的で暴力を振るうような人間以外にも危険人物はいます。それは虎の威を借る狐方式で、何かと自分の思い通りにしようとするタイプ。可愛くたとえるなら「ドラえもん」の世界でいうスネ夫になるんでしょうが、キング作品にそんな甘っちょろいキャラクターはいません。それが『グリーンマイル』に登場する唯一の悪人、パーシー・ウェットモア。無能なだけでなく、残忍で不注意と三拍子揃っていて余計たちが悪い!
しかし、関わるのが面倒だからと言ってこれを放っても現状は改善されません。かと言って、殴りたくても殴っては自分が不利な立場に追いやられてしまう。主人公のポール看守は、正当な理由を見つけて上に彼の不適合性を主張し、他部署に変えてもらいました。真っ向勝負より冷静な対応が吉です。
●余計な手を出すヒーロー気取り系「ノーマ」(『ミスト』)
パニック映画に必ず一人はいるのが、THEいらんことする奴。強がって危険な封印を解いてしまったり、不注意で仲間を窮地に追い込んだり。イライラ必須のこの役回り、『ミスト』では、住民がスーパーで立て籠もる中「外の様子を見る」と勇者ぶった青年ノーマがいました。彼がシャッターを開けたせいで化け物は中に入ってきてしまい、死者続出で大パニック。おい、どうしてくれるんだ!
でも、彼のような人をどうか責めないで。あの閉鎖的な空気の中で、健全な振る舞いをする方が難しいんですから。実際、他にも危うい人物いましたよね? ノーマは出過ぎた行為で化け物に食べられ帰らぬ人になってしまいましたが、たまたま彼だったという見方もあるわけで。自分がそうならないよう、気をつけようと思わされる人物です。
●そんな地雷聞いてないよ!系「アニー」(『ミザリー』)
作家のポールを吹雪による事故から救った、心優しい元看護師のアニー。ここで助かって平穏が訪れる、なんて展開を許してくれないのがキングです。だってアニーは地雷がどこにあるのか全くわからないバイオレンスストーカーなわけですから。
普段優しいのに、一度スイッチが入ると取り返しがつかない。人を疑うのは心が痛みますが、ハニートラップならぬアニートラップだけには出くわしたくない。迂闊に地雷を踏むと、ポールのように両足を失う羽目になってしまう……なんてことは流石にないかもしれないけど危険。もし終電を無くした時、美女の「うちに来る?」のお誘いにはご注意を。相手がどんなに無害そうで優しそうでも、「怖がらないで」と言っても、NOという勇気を持ちましょう。怖がってください。
◆ケトルVOL.52(2020年2月16日発売)
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・ケトル VOL.52-太田出版
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