雑誌『ケトル』は、6月号として「みんなの大好き」特集を制作中。みんなの大好きをつくる方々と、各々が好きなものに焦点を当てた内容になります。そして現在、note公式アカウントでは、特集「みんなの大好き」にちなんで「#わたしの大好き」をテーマに1000〜1500字のコラム・エッセイを募集中。新型コロナウイルスによって、人と人だけではなく様々なものと距離を取らざるを得ない日々が続きますが、「いまは触れらないが、収束後は……」「外では難しいが、今は家の中で楽しんでいる」「あらためて自分にとって大切なものだと気づいた」など、大好きなものや、愛が深まったものへの想いを寄稿いただいてます。今回はその中から、satomi funeさんの原稿を紹介させてください。
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わたしのだいすきな食べ物は、カレーだ。
学校から帰ってきて、玄関の扉を開けた瞬間にカレーの匂いがした日の心の高鳴りを、ずっとずっと持ち続けている。
家で食べるカレーも好きだけれどお店で食べるカレーも好きで、二年ほど前にカレー屋へ行った記録をつけるインスタグラムアカウントを始めてから、自分がカレー屋を好きな理由について考えるようになった。
カレー屋は、当たり前だけれどカレーが好きな店主がやっている。いや、カレーのことしか考えられない人がやっている。わたしはお店に入ると、まずカレーを作っている人の姿を探す。キッチンが表に出ているカレー屋は多く、汗を流しながらカレーと向き合う人の横顔や、背中を見ると胸がきゅっとなる。
それから、周りを見渡す。自分と同じように、カレーが好きだったり、今日この時間にカレーが食べたいと思っている人たち。普通に生活をしていたら交わらないような人たちが、同じカレーを食べたいという気持ちで同じ場所にいる。もう、それだけでぐっとくる。
そんなカレー愛に囲まれながらカレーを食べると、美味しい、と感じながら心まで満たされて幸せな気持ちになる。本当かは分からないけれど、スパイスは腸を刺激して、幸せホルモンのセロトニンを出してくれるらしい。
そんな愛に満ちたカレー屋に行くことが叶わない日々が続き、徒歩圏内のカレー屋ではテイクアウトを楽しみながら、カレー作りを始めた。自分の為に時間をかけた料理をすることが苦手なのに、やっぱりカレーがない生活には耐えられなかったのだ。
始めたといっても、たまにしか作らない。カレー屋に行く頻度が週一くらいだったから、そのくらいのペースで。それでも、キッチンにスパイスが並んでいることがうれしくて、普段の料理にも使うようになった。本当に、簡単な野菜と肉を炒めたもの、とかに。
今まではカレー好きの友人とカレー屋に行って、友人が「カルダモンが効いてる…!」と言っていてもこの麗しいカレーの匂いのどこを指しているのかわからない!と思っていたし、店主が汗を流しながらカレーを作る姿に感動しながらも、どんなことに時間がかかったり悩んだりするのかがわからなかった。
それが自分の手で食材を選んでスパイスを使うようになって、ほんの上澄みくらいのことかもしれないけれどわかったこともある。今度カレー屋に行ったら、何のスパイスが効いているか私も友人に言ってみたいと思う。ドキドキするけど。
話が変わるが、昨日『バジュランギおじさんと、小さな迷子』を観た。パキスタンの山岳地帯に住む少女がひょんなことからインドで迷子になってしまい、出会ったバジュランギが国境を越えてパキスタンの家を探しにいく話だ。宗教や歴史で対立している情勢を乗り越えて、彼女への愛情を一番に行動し、国と国、というボーダーを越えて人々の心を動かすバジュランギの姿をみていたら、カレーを思い出した。カレーも、一つのお皿の中で多様な価値観を混ぜることができるから。混ぜれば混ぜるほど熱くて美味しくなる。心が温かくなる。
日常的に触れていた、味わっていた、目にしていた「私の大好き」にこの状況で近づけないことは正直辛い。しんどい。その日常に、どれだけ自分か力をもらっていたかということ。
だけど、近づけない分の時間にも、大好きを想うことはできる。わたしの場合は、カレーをテイクアウトしたり、そして作ることで想っている。
きっと、再びカレー屋でカレーを食べることができた時、私の中に増えたカレーの楽しみ方、スパイスを感じることや調理の過程を想うこと、は大好きを爆発させる材料になるに間違いない。
そのことが本当に本当にたのしみだ。
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いただいた言葉の一つ一つが、また誰かの文化との出会いになれば幸いです。お好きなものについてぜひご寄稿ください。宜しくお願い申し上げます。
【Twitterでも #わたしの大好き を教えてください】
コラム/エッセイと同テーマ「#わたしの大好き」でTwitterでも想いをつぶやいていただけると嬉しいです。#わたしの大好き とともにTwitterでつぶやかれた言葉を誌面に載せさせていただければと存じます。
新型コロナウイルスによって、人と人だけではなく、好きなもの自体と距離を取らざるをえなくなったことが多くあると思います。大好きなものへの想いを #わたしの大好き とともにお教えくださいませ。投稿いただいた言葉の中から、雑誌『ケトル』6月号紙面でも掲載させていただければ幸いです。 pic.twitter.com/BTt6TQfdf3
— 太 田 出 版 ケ ト ル ニ ュ ー ス (@ohta_kettle) May 1, 2020